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重症妊娠悪阻はいつ受診・入院?つわりとの違い、体重減少5%と治療を徹底解説【2026年】

室井 健太 室井 健太 • 更新: • 公開: • 読了約 26 分
目次

妊娠初期に起こる吐き気や嘔吐は、一般に「つわり」と呼ばれ、多くの妊婦が経験する症状です。しかし、水分や食事をほとんど摂取できない状態が続き、体重減少や脱水、電解質異常まで生じると、単なるつわりではなく「妊娠悪阻(にんしんおそ)」と診断されることがあります。なかでも症状が著しく、栄養状態や全身状態に深刻な影響が及ぶ状態が重症妊娠悪阻です。

受診や入院を判断する際の目安として知られるのが、妊娠前の体重から5%以上の減少です。ただし、この数字だけで診断や入院の必要性が決まるわけではありません。2026年の日本の産婦人科診療ガイドラインでは、脱水の所見、経口摂取の可否、尿中ケトン体、電解質異常などを踏まえた治療が示されています。原因として研究が進むGDF15、点滴やビタミンB1補給、制吐薬、入院期間、仕事を休む際の母健連絡カードまで、知っておきたい医学的情報を整理します。

【基礎知識】重症妊娠悪阻とは?通常のつわりと何が違うのか

重症妊娠悪阻

妊娠悪阻は、妊娠初期に起こる悪心や嘔吐が重症化し、食事や水分の摂取が困難になって、母体の栄養状態や全身状態に影響を及ぼす疾患です。英語ではHyperemesis Gravidarum(HG)と呼ばれます。

日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会の「産婦人科診療ガイドライン―産科編2026」では、妊娠初期の悪心・嘔吐は妊婦の半数以上にみられる一方、体重減少や脱水、電解質異常などを伴う妊娠悪阻は全妊婦の約0.5~2%に発症するとされています。

重要なのは、つわりと妊娠悪阻の間に、誰にでも当てはまる明確な境界線が存在するわけではないことです。嘔吐の回数だけでは重症度を判断できず、食べられる量、飲める量、体重の変化、尿量、日常生活への影響などを総合的に評価します。

通常のつわりにみられる症状

一般的なつわりでは、妊娠5~6週頃から吐き気や食欲不振、胃の不快感、においへの過敏さなどが現れます。

代表的な症状は次のとおりです。

  • 朝起きたときや空腹時の吐き気
  • 食べ物や生活用品のにおいに対する過敏反応
  • 食欲低下や食べられる食品の偏り
  • 食後の胃もたれや軽い嘔吐
  • 唾液が増える、口の中が不快になる
  • 疲労感や眠気、軽いめまい

症状には個人差がありますが、少量ずつでも食事や水分を摂取でき、日常生活をある程度維持できる場合は、一般的なつわりの範囲で経過することがあります。

重症妊娠悪阻で注意したい症状

妊娠悪阻では、吐き気や嘔吐が持続し、食事だけでなく水分まで受け付けなくなることがあります。体内に必要な栄養や水分を補給できないため、脱水と代謝異常が進行する危険があります。

  • 水やお茶を飲んでも吐いてしまう
  • 食事をほとんど受け付けない
  • 妊娠前と比べて体重が大きく減少する
  • 尿の量が減る、尿の色が濃くなる
  • 口や唇、皮膚が乾燥する
  • 立ち上がったときに強いめまいやふらつきがある
  • 動悸や強い倦怠感が続く
  • 吐物に胆汁や血液が混じる

さらに重症化すると、低カリウム血症などの電解質異常、腎機能障害、肝機能障害、ビタミン欠乏による神経障害が起こる場合もあります。

特に、意識がぼんやりする、目の動きがおかしい、歩行が不安定になるといった症状は、ウェルニッケ脳症などの重大な合併症を疑うサインです。こうした症状がある場合は、通常の健診日を待たず、緊急に医療機関へ連絡する必要があります。

【受診・入院の判断】体重減少5%・脱水・尿中ケトン体の目安と検査

重症妊娠悪阻を疑うとき、特に注目されるのが体重減少率です。妊娠前の体重から5%以上減少している場合は、栄養状態の悪化を示す重要な指標になります。

体重減少5%はどのくらい?

体重減少率は、妊娠前の体重を基準として計算します。

体重減少率=(妊娠前の体重-現在の体重)÷妊娠前の体重×100

例えば、妊娠前の体重が60kgの場合、5%に相当する減少量は3kgです。現在の体重が57kgになっていれば、妊娠前から5%減少した計算になります。

ただし、5%は受診を開始するための絶対的な境界線ではありません。体重が3%しか減っていなくても、水分をまったく保持できない、尿量が極端に減っている、立ちくらみが強いといった場合は、早急な診察が必要です。

尿中ケトン体検査だけでは重症度を判断できない

妊娠悪阻の検査として知られるものに、尿中ケトン体検査があります。

食事から十分な糖質を摂取できない状態が続くと、身体はエネルギー源として脂肪を分解します。その際に生じる物質がケトン体です。尿中にケトン体が検出されると、栄養摂取が不足している可能性を示します。

日本の2026年版ガイドラインでは、脱水の身体所見や5%以上の体重減少と経口摂取不能、尿中ケトン体の強陽性が続く状態などを、輸液を検討する材料として挙げています。

一方、2024年に改訂された英国王立産婦人科医会(RCOG)の診療ガイドラインでは、尿中ケトン体は脱水や妊娠悪阻の重症度を評価する指標として使用すべきではないとされています。

この違いを理解することが大切です。尿中ケトン体は栄養不足の参考情報にはなりますが、陽性だから必ず入院、陰性だから重症ではない、という判断はできません。症状、体重変化、身体所見、血液検査を組み合わせて評価します。

妊娠悪阻の診断で行われる検査

医療機関では、問診と身体診察を基本として、脱水の程度や臓器への影響を確認します。

  • 尿検査:尿中ケトン体や尿の濃縮状態、尿路感染症の可能性などを確認する。
  • 血液検査:ナトリウム、カリウム、クロールなどの電解質を測定する。
  • 腎機能検査:尿素窒素(BUN)やクレアチニンを確認し、脱水による腎機能への影響を調べる。
  • 肝機能検査:AST、ALTなどを測定し、肝機能障害の有無を確認する。
  • その他の検査:必要に応じて血糖、マグネシウム、リン、甲状腺機能などを調べる。
  • 超音波検査:多胎妊娠や胞状奇胎など、嘔吐を強くする可能性のある産科的要因を確認する。

嘔吐が妊娠初期以外に始まった場合や、腹痛、発熱、下痢などを伴う場合は、胃腸炎、胆道疾患、虫垂炎、尿路感染症、甲状腺疾患なども鑑別対象になります。

症状と検査結果の関係を整理
項目 確認する内容 医学的な意味・対応
通常のつわり 吐き気、食欲低下、軽い嘔吐 水分や食事をある程度摂取できるか確認する
体重減少5%以上 妊娠前の体重との比較 栄養状態の悪化を示す重要な指標。輸液などを検討する
脱水症状 口腔乾燥、尿量減少、頻脈、めまい 水分不足の程度を評価し、必要に応じて補液する
尿中ケトン体 尿中のケトン体の有無と程度 栄養不足の参考情報。ただし単独で重症度を決めない
血液検査 電解質、腎機能、肝機能など 低カリウム血症や臓器障害などを確認する

表の要点は、重症妊娠悪阻の判断が一つの検査結果だけで決まるものではないことです。特に、飲水できない状態が続く場合は、体重減少率や尿中ケトン体の結果を待たずに産婦人科へ相談してください。

【原因を解説】hCGだけではない?GDF15と重症妊娠悪阻の関係

妊娠悪阻の原因は、長年にわたって研究されてきました。妊娠初期に増加するホルモンや胎盤の働き、遺伝的な要因などが関係すると考えられていますが、一つの原因だけですべてを説明できるわけではありません。

hCGは妊娠悪阻の原因なのか

hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は、妊娠成立後に胎盤のもととなる組織から分泌されるホルモンです。妊娠初期に急激に増加し、妊娠8~10週頃に高い値を示した後、徐々に低下する傾向があります。

つわりが強くなる時期とhCGの増加時期が重なることから、以前はhCGが妊娠悪阻の主要な原因ではないかと考えられてきました。

また、hCGが高くなることのある多胎妊娠や胞状奇胎では、強い悪心・嘔吐がみられる場合があります。

しかし、hCG値と妊娠悪阻の重症度には一貫した関連が確認されておらず、hCGが直接的な原因であると断定することはできません。

2024年のNature研究で注目されたGDF15

原因研究で特に注目されているのが、GDF15(Growth Differentiation Factor 15)という成長分化因子です。

2023年12月13日に科学誌「Nature」でオンライン公開され、2024年の同誌第625巻に掲載された研究では、胎児・胎盤側から産生されるGDF15と、母体側のGDF15に対する感受性が、妊娠中の吐き気や妊娠悪阻のリスクに大きく関係することが報告されました。

研究で示された主な要点は次のとおりです。

  • 妊娠中の母体血液中に存在するGDF15の大部分は、胎児・胎盤側に由来する。
  • 妊娠悪阻を経験した女性では、血中GDF15濃度が高い傾向が確認された。
  • 妊娠前のGDF15濃度が低い女性は、妊娠時に強い症状を経験するリスクが高くなる可能性がある。
  • GDF15への母体の感受性が、症状の強さを左右する重要な要素となる。

GDF15は脳幹にある受容体GFRALを介して、吐き気や食欲低下に関係する神経経路に作用すると考えられています。

興味深いのは、妊娠中のGDF15の量だけでなく、妊娠前からそのホルモンにどの程度さらされていたかによって、母体の反応が変わる可能性が示された点です。

ただし、GDF15の血中濃度には個人差があり、妊娠悪阻の患者とそうでない患者の間でも数値が重なるため、現時点ではGDF15測定だけで診断できるわけではありません。

妊娠悪阻は本人の性格や気持ちの問題ではない

強い吐き気が続くと、周囲から「妊娠すればよくあること」「気持ちの持ち方で変わる」と受け止められてしまうことがあります。

しかし、妊娠悪阻にはホルモンや胎盤由来の物質、遺伝的な感受性など、身体的な要因が関係しています。精神的な負担や生活環境への配慮も治療の一部ですが、本人の努力不足や性格の問題として扱うべきではありません。

日本の2026年版ガイドラインでも、身体的な治療だけでなく、妊婦の訴えに理解を示し、心理的・社会的な支援を行うことが重視されています。

【治療方法】重症妊娠悪阻の点滴・ビタミンB1・制吐薬とは

重症妊娠悪阻の治療では、吐き気を抑えることだけでなく、脱水と栄養不足を改善し、母体の全身状態を安定させることが重要です。

治療の中心となるのは、輸液、電解質補正、ビタミン補給、制吐薬の使用です。症状が強い場合や経口摂取が難しい場合は、入院して治療を行います。

点滴治療・輸液で水分と電解質を補う

嘔吐が続くと、水分だけでなくナトリウム、カリウム、クロールなどの電解質も失われます。

特に注意が必要なのが低カリウム血症です。カリウムは心臓や筋肉、神経の正常な働きに必要な電解質であり、著しく不足すると不整脈などの重大な問題を引き起こす可能性があります。

点滴治療では、脱水の程度や血液検査の結果に応じて輸液を行い、必要な電解質を補充します。日本産科婦人科学会の2026年版ガイドラインでは、脱水に対してビタミンB1を添加したブドウ糖を含む輸液を十分に行うことが推奨されています。

輸液中も血液検査で電解質を確認し、特にカリウムの不足があれば適切に補正します。補液の種類や量は、患者の状態や検査結果に合わせて調整されます。

ビタミンB1(チアミン)補給が必要な理由

重症妊娠悪阻の治療で特に重要なのが、ビタミンB1(チアミン)の補給です。

ビタミンB1は、糖質をエネルギーに変換する際に必要な栄養素です。長期間食事が摂れない状態が続くと、体内のビタミンB1が不足することがあります。

この状態で十分なビタミンB1を補わずにブドウ糖を投与すると、糖質代謝に必要なビタミンB1がさらに消費され、神経系に深刻な障害を引き起こす危険があります。

代表的な合併症がウェルニッケ脳症です。

主な症状には、次のようなものがあります。

  • 眼球運動障害や眼振
  • ふらつき、歩行時のバランス障害
  • 意識障害や混乱
  • 記憶障害や傾眠

ウェルニッケ脳症は重篤な神経疾患で、治療が遅れると後遺症が残る可能性があります。そのため、妊娠悪阻で長期間食事を摂取できない患者には、予防的なビタミンB1補給が重要です。

特にブドウ糖を含む輸液や高カロリー輸液を開始する際は、ビタミンB1を先行して、または適切に併用して投与する必要があります。

妊娠悪阻に対する制吐薬の種類

嘔吐を抑えるためには、制吐薬(吐き気止め)が使用されることがあります。

日本産科婦人科学会の診療ガイドラインでは、悪心・嘔吐によって日常生活が著しく制限されている場合、制吐薬の使用を検討することが示されています。

代表的な薬剤の種類は以下のとおりです。

  • ビタミンB6(ピリドキシン):妊娠中の悪心を軽減する目的で使用が検討される。
  • 抗ヒスタミン薬:ヒスタミンH1受容体に作用し、吐き気を抑える。
  • ドパミン受容体拮抗薬:ドパミンの作用を抑え、嘔吐を軽減する。
  • セロトニン5-HT3受容体拮抗薬:吐き気や嘔吐に関係するセロトニンの作用を抑える。

海外の診療ガイドラインでは、メトクロプラミドやオンダンセトロンなども治療選択肢として挙げられています。

ただし、日本では薬剤によって妊娠悪阻に対する保険適用の有無が異なり、適応外使用となる場合もあります。妊娠週数や母体の状態、過去の薬剤使用歴などを考慮し、医師が選択します。

妊娠中の薬剤使用を心配して、強い症状を我慢し続ける必要はありません。薬剤を使用しない場合の脱水や栄養障害のリスクも含めて、産婦人科医と相談することが大切です。

治療に反応しない場合の栄養管理

点滴や制吐薬を使用しても体重減少が続く場合は、より積極的な栄養管理が必要になります。

状況に応じて、末梢静脈からの栄養補給、経腸栄養、中心静脈栄養などが検討されます。中心静脈栄養は、通常の治療で十分な栄養を確保できず、著しい体重減少が続くような難治性の症例で慎重に判断される方法です。

また、長期にわたる摂食不良では、ビタミンKなどの不足にも注意が必要です。治療中は体重だけでなく、血液検査や栄養状態を継続的に評価します。

【入院期間と回復】妊娠悪阻はいつまで続く?退院できる目安

重症妊娠悪阻で入院した場合、気になるのが入院期間と回復までの見通しです。

妊娠悪阻には、すべての患者に共通する決まった入院日数はありません。症状の程度、脱水や電解質異常の有無、治療への反応、食事や水分を再び摂取できるようになるまでの期間によって異なります。

妊娠何週頃に症状が改善する?

一般的なつわりは妊娠初期に強くなり、妊娠12~16週頃に軽快するケースが多くみられます。

ただし、重症妊娠悪阻では通常のつわりより長く症状が続くことがあります。妊娠中期以降まで吐き気が残る人もおり、改善の時期には個人差があります。

また、妊娠16週以降に初めて強い嘔吐が現れた場合や、妊娠後半まで症状が続く場合は、妊娠悪阻以外の病気が隠れていないかを確認する必要があります。

退院を判断する際のポイント

退院の判断では、吐き気が完全になくなったかどうかだけでなく、日常生活を維持できる程度まで身体の状態が回復しているかを確認します。

  • 水分を口から摂取できるようになった
  • 少量でも食事を摂れるようになった
  • 制吐薬などを内服できるようになった
  • 脱水症状が改善している
  • 電解質や腎機能などの検査値が安定している
  • 体重減少が止まり、栄養状態が改善傾向にある

退院後も吐き気が完全に消失していないことは珍しくありません。自宅で水分や食事を少量ずつ摂取し、外来で体重や症状を確認しながら回復を目指します。

退院後に再び悪化することはある?

あります。退院時には水分摂取が可能になっていても、帰宅後に嘔吐が再び増え、飲食が難しくなることがあります。

特に、食事量が十分に戻っていない段階で仕事や家事を再開すると、身体的な負担が大きくなる可能性があります。

退院後に尿量が減る、飲水できない、体重が再び減る、強いめまいや動悸が出るといった場合は、早めに医療機関へ相談してください。必要に応じて外来での点滴や再入院が検討されます。

【仕事・休業への対応】母性健康管理指導事項連絡カードの使い方

妊娠悪阻は、仕事を続けながら治療することが難しくなる場合があります。通勤中の吐き気、長時間の勤務、においや室温などの環境刺激によって症状が悪化することもあるためです。

体調が悪いにもかかわらず、仕事を休むことに罪悪感を持つ妊婦もいます。しかし、重症妊娠悪阻では休養や入院が治療の一部です。仕事よりも母体の回復を優先する必要があります。

妊娠悪阻で仕事を休むことはできる?

医師が休業や勤務上の配慮が必要と判断した場合は、その指示に従って仕事を休んだり、勤務内容を変更したりすることができます。

具体的には、次のような措置が考えられます。

  • 勤務時間の短縮
  • 通勤時間や通勤方法への配慮
  • 休憩時間の確保
  • 立ち仕事や身体的負担の大きい業務の軽減
  • 勤務日数や勤務形態の調整
  • 必要な期間の休業

入院加療が必要な重症例では、医師の判断に基づいて一定期間仕事を休むことになります。

母性健康管理指導事項連絡カードとは

仕事と治療を両立するために活用したい制度が、母性健康管理指導事項連絡カードです。一般に「母健連絡カード」と呼ばれています。

これは、医師や助産師などが妊婦に対して行った健康管理上の指導を、勤務先に正確に伝えるための書類です。

厚生労働省の「働く女性の心とからだの応援サイト」によると、医師などから通勤緩和や休憩、勤務時間短縮などの指導を受けた場合、その内容を事業主に伝えるために利用できます。

母健連絡カードを利用する流れ

利用方法は次のとおりです。

  1. 産婦人科を受診する:吐き気や嘔吐の程度、仕事への影響を医師に具体的に伝える。
  2. 医師に指導内容を記載してもらう:休業や勤務時間短縮、通勤緩和など、必要な措置をカードに記載してもらう。
  3. 勤務先に提出する:カードを事業主や人事担当者に提出し、必要な配慮を申し出る。
  4. 勤務上の措置を受ける:事業主は記載された内容に応じて適切な措置を講じる。

厚生労働省は、母健連絡カードを診断書に代わる正式な証明書類として扱うよう案内しています。また、カードの提出がない場合でも、女性労働者から医師の指導内容について申し出があれば、事業主は必要な対応を検討する必要があります。

カードの様式は厚生労働省の公式サイトから入手できます。

休業中の給与や手当はどうなる?

ここで注意したいのが、母健連絡カードと給与・休業中の給付は別の問題であることです。

母健連絡カードは医師の指導内容を勤務先に伝えるための書類であり、それ自体が休業中の給与や手当を保証するものではありません。

給与の取り扱いは会社の就業規則や休暇制度によって異なります。健康保険の傷病手当金についても、加入している保険や休業の状況など、所定の支給要件を満たす必要があります。

入院や長期休業が必要になった場合は、勤務先の人事担当者や加入している健康保険の窓口に相談し、利用できる制度を確認しておくと安心です。

【見落としやすい注意点】重症妊娠悪阻で知っておきたい合併症と判断基準

妊娠悪阻では、吐き気や嘔吐そのものだけでなく、長期間の水分・栄養不足によって起こる合併症にも注意が必要です。

低カリウム血症と不整脈

嘔吐が続くと、食事からのカリウム摂取量が減少するだけでなく、嘔吐によって体外に失われる量も増加します。

妊娠中はもともと身体の生理的変化によって血清カリウム値が低くなりやすく、そこに摂取不足と嘔吐が重なると、低カリウム血症が進行する可能性があります。

日本の産婦人科診療ガイドラインでは、妊娠悪阻に伴う低カリウム血症が原因となった不整脈による妊産婦死亡例も報告されていることから、輸液時の血清カリウム値の確認が重視されています。

深部静脈血栓症にも注意

妊娠中は血液が固まりやすい状態にあり、妊娠悪阻による脱水や長期間の安静が加わると、深部静脈血栓症のリスクが高くなる可能性があります。

深部静脈血栓症は、主に脚の静脈に血栓ができる病気です。血栓が肺に移動すると肺血栓塞栓症を引き起こす危険があります。

入院中は、患者の状態や血栓症のリスクに応じて、適切な水分管理や血栓予防策を検討します。

受診を先延ばしにしないための判断基準

重症妊娠悪阻では、体重が5%減るまで待つ必要はありません。次のような状態があれば、早めに産婦人科へ連絡してください。

  • 水分を飲んでも吐いてしまい、ほとんど保持できない
  • 尿が極端に少なくなった
  • 強い立ちくらみや動悸がある
  • 食事をほとんど摂れない状態が続いている
  • 体重が短期間で大きく減少している
  • 点滴や薬による治療が必要だと感じるほど症状が強い

意識障害、歩行障害、激しい腹痛、吐血、失神などがある場合は、緊急性の高い状態が疑われます。速やかに救急医療につなげてください。

【重症妊娠悪阻】に関するよくある質問(FAQ)

Q1:重症妊娠悪阻は体重が5%減少しないと診断されませんか?
A1:いいえ。5%以上の体重減少は重要な目安ですが、必須条件ではありません。飲水できない、脱水症状がある、尿量が減少しているなどの場合は、体重減少が5%未満でも受診や治療が必要です。診断は症状や身体所見、血液検査などを総合して判断します。

Q2:尿中ケトン体が陽性なら必ず入院になりますか?
A2:必ずしも入院になるわけではありません。尿中ケトン体は栄養不足を評価する参考情報ですが、単独で重症度や入院の必要性を判断する検査ではありません。脱水の程度、飲水できるか、体重の変化、血液検査などを合わせて判断します。

Q3:妊娠悪阻の点滴治療ではビタミンB1が必要ですか?
A3:長期間食事が摂れない場合は、ビタミンB1の不足によるウェルニッケ脳症を予防するため、補給が重要です。特にブドウ糖を含む輸液や高カロリー輸液を行う場合は、ビタミンB1を先行または適切に併用することが推奨されています。

Q4:妊娠悪阻は妊娠何週まで続きますか?
A4:一般的なつわりは妊娠12~16週頃に軽快することが多いものの、妊娠悪阻ではそれ以降も症状が続く場合があります。回復時期には個人差があり、妊娠中期以降も症状が強い場合は、ほかの病気の可能性も含めて再評価が必要です。

Q5:妊娠悪阻で仕事を休む場合、母健連絡カードは必要ですか?
A5:母健連絡カードは、医師の指導内容を勤務先に伝えるための便利な書類です。勤務時間短縮や通勤緩和、休業などが必要な場合に活用できます。ただし、カードがなくても医師の指導内容について本人から申し出があれば、事業主は適切な対応を検討する必要があります。

重症妊娠悪阻は、通常のつわりとは異なり、食事や水分を十分に摂取できないことで、脱水や栄養障害、電解質異常などを引き起こす可能性がある病気です。

妊娠前の体重から5%以上減少することは重要な判断材料ですが、それに達するまで受診を待つ必要はありません。水分が摂れない、尿量が減る、めまいや動悸が強いといった症状があれば、早めに産婦人科へ相談することが大切です。

2026年の日本の診療情報では、治療の基本として点滴による水分・電解質補給、ビタミンB1の補充、症状に応じた制吐薬の使用が示されています。特にウェルニッケ脳症の予防には、ビタミンB1の適切な補給が欠かせません。

原因研究では、従来注目されていたhCGだけでなく、胎盤由来のGDF15と母体の感受性が重要な役割を果たすことが明らかになってきました。今後はこうした研究が、発症リスクの理解や新しい治療法の開発につながることが期待されます。

また、仕事を続けることが難しい場合には、母健連絡カードを利用して勤務先に必要な配慮を申し出ることもできます。

妊娠悪阻は、本人の我慢や努力だけで乗り切るべき症状ではありません。母体の健康を守るためにも、体重や尿中ケトン体の数値だけにとらわれず、食事・水分の摂取状況や身体の変化を重視し、適切なタイミングで医療機関の支援を受けることが大切です。

主な医学的根拠・参照資料

- 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン―産科編2026」CQ201。
- 英国王立産婦人科医会(RCOG)「Green-top Guideline No.69」(2024年改訂)。
- Nature掲載研究「GDF15 linked to maternal risk of nausea and vomiting during pregnancy」(2024年)。
- 厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト」「母健連絡カードについて」。

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コンテンツディレクター 室井 健太
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