ヤクザの世界が大きく変わった背景には、警察による取り締まりだけでなく、企業、金融機関、自治体、一般市民が関わる社会全体の排除政策がある。
中心となるのが、暴力団対策法と暴力団排除条例だ。
暴力団対策法(暴対法)は何を規制する法律?暴力団対策法は、1991年に成立し、1992年3月1日に施行された。
それ以前から暴力団による不当要求や抗争は社会問題となっていたが、同法の施行によって、指定暴力団員による不当な要求行為などに対する規制が制度化された。
主な目的は次の3点だ。
1. 暴力団員による不当な要求行為を規制する。
2. 暴力団の対立抗争による市民生活への危険を防止する。
3. 暴力団による被害を防止するため、民間団体の活動を促進する。
指定暴力団員が法律で定められた不当要求行為を行った場合、公安委員会による中止命令や再発防止に向けた措置などの対象となる。
また、改正を重ねた同法には、対立抗争や組織の威力を利用した資金獲得行為に関する代表者の損害賠償責任なども盛り込まれている。
単に組員を逮捕するだけではなく、組織の活動そのものを制限する仕組みへと発展してきた。
暴力団排除条例(暴排条例)は何を禁止している?暴対法と並んで大きな影響を与えたのが、暴力団排除条例(暴排条例)である。
2011年10月1日までに、全都道府県で施行された。
暴対法が主に暴力団員の不当行為を規制するのに対し、暴排条例は、自治体、企業、住民などが連携して暴力団の活動を社会から排除することを目的としている。
具体的には、次のような取り組みがある。
- 公共事業や行政との契約からの暴力団排除
- 暴力団への不当な利益供与の禁止
- 暴力団事務所の新設・運営に対する規制
- 不動産取引における暴力団排除条項の導入
- 企業間取引における反社会的勢力との関係遮断
- 暴力団からの離脱支援や被害者保護
都道府県によって条例の細かな内容は異なるが、共通する方向性は、暴力団に資金や活動場所を提供しない社会環境をつくることだ。
なぜ金融機関や不動産業界まで排除を進めるのか暴力団にとって、組織を維持するためには資金だけでなく、銀行口座、事務所、携帯電話、取引先などの社会的な基盤が必要になる。
そのため、暴排条例の施行後は、金融機関や不動産業界でも反社会的勢力を排除する取り組みが進んだ。
銀行の預金規定などには、暴力団員や一定の関係者に該当しないことを表明・確約する条項が設けられている。
不動産取引でも、物件が暴力団事務所として利用されないことを確認するなど、契約段階での対策が進められてきた。
つまり、暴力団に対する規制は、警察による捜査だけでなく、社会生活を支えるインフラとの関係にも及んでいる。
【映画『ヤクザと家族 The Family』】1999年・2005年・2019年に見るヤクザの変化
2021年1月29日公開・上映時間135分
- 監督・脚本:藤井道人
- 主演:綾野剛
- 出演:舘ひろし、尾野真千子、北村有起哉ほか
- ジャンル:人間ドラマ
ヤクザの実態を考えるうえで、映画『ヤクザと家族 The Family』は興味深い作品だ。
監督・脚本を務めたのは、映画『新聞記者』や『MOTHER マザー』などでも知られる藤井道人。主演の綾野剛が山本賢治を演じ、舘ひろしが柴咲組組長の柴崎博を演じる。
この作品の特徴は、ヤクザの抗争だけを描くのではなく、組織の変化によって人生や家族関係まで影響を受ける人々に焦点を当てていることだ。
物語は1999年、2005年、2019年という3つの時代を行き来する。
1999年:ヤクザが居場所や家族として描かれた時代1999年の山本賢治は、父親を覚醒剤によって失い、荒れた生活を送っていた。
そんな彼が出会ったのが、柴咲組組長の柴崎博だった。
山本は柴崎の危機を救い、その後、2人は父子の契りを結ぶ。
この時代の物語で印象的なのは、組織が単なる犯罪集団としてだけではなく、山本にとって自分を受け入れてくれる居場所として描かれていることだ。
家族を失った青年が、血縁ではない人々との関係に自分の存在意義を見いだす。
ただし、これは映画の人物描写であり、実際の暴力団組織における親分・子分関係の厳しさや犯罪性が消えるわけではない。
2005年:組織の一員として生きる山本と激化する抗争2005年になると、山本はヤクザの世界で存在感を強めていく。
しかし、因縁の相手である侠葉会との抗争が激しくなり、組織内外の人間関係も複雑になっていく。
山本は、自分と似た境遇を持つ女性との出会いを経験し、仲間との別れにも直面する。
やがて、自分にとって大切な家族や仲間を守るため、ある決断を下す。
この時代の描写から見えるのは、組織への忠誠と個人の人生が切り離しにくいという問題だ。
組長や仲間を家族のように感じていても、組織の論理に従えば、本人だけでなく周囲の人間の生活まで変わってしまう。
2019年:暴対法と社会的排除によって変わったヤクザの世界2019年、山本は14年の服役を終えて出所する。
しかし、14年前とは柴咲組の状況が大きく変わっていた。
かつての事務所は寂れ、組員は減少。組織の勢力も弱まり、縄張りを他組織に侵食されている。
山本が出所後に教えられるのが、携帯電話の契約などに関係する「5年ルール」だ。
以前のように一般社会で生活することが難しくなり、銀行や仕事、交友関係にも制約が生まれている。
加えて、かつての仲間である細野は組を離脱して働いているものの、山本との関係が明らかになることを恐れている。
柴咲組のシノギも変化しており、山本はシラスウナギの密漁や覚醒剤の密売など、かつての組織とは異なる状況に直面する。
特に象徴的なのが、山本の存在がSNSで拡散されることで、工藤と娘の生活にまで影響が及ぶ展開だ。
工藤は市役所で働いていたが、山本との関係をめぐる情報が広がり、職場での立場を失っていく。娘も学校で周囲から影響を受ける。
ここでは、暴力団員本人だけでなく、その関係者まで社会的な偏見にさらされる現実が描かれている。
3つの時代から読み取れるヤクザの変化| 時代 | 登場人物・関係 | 物語が示す社会的背景 |
|---|---|---|
| 1999年 | 山本賢治と柴崎博が父子の契りを結ぶ | 組織への帰属意識や擬制的な家族関係 |
| 2005年 | 山本が柴咲組の一員として活動し、工藤らと出会う | 組織内の序列、抗争、仲間への忠誠 |
| 2019年 | 出所した山本と柴崎、細野、工藤、翼らの関係が描かれる | 暴排政策、組織の衰退、離脱後の制約、家族への社会的影響 |
この3つの時代を比較すると、映画が描く変化の本質は、ヤクザの組織が小さくなったことだけではないと分かる。
かつては組織の内部にあった人間関係が、2019年には社会との関係を断ち切る要因にもなっている。
ただし、映画は実在の暴力団を記録したドキュメンタリーではない。シラスウナギの密漁や登場人物の境遇などは、作品内の物語として理解する必要がある。
それでも、暴対法や暴排条例がもたらした社会的な変化を考えるための題材として、非常に示唆に富んでいる。
【2026年のヤクザの現在と実態】構成員は過去最少、それでも脅威は残る
ヤクザの世界は、映画の中だけの存在ではない。
警察庁が2026年4月に公表した「令和7年における組織犯罪の情勢」には、2025年末時点の暴力団の実態がまとめられている。
2025年末の暴力団構成員等は1万7,600人
2025年末・暴力団構成員等の総数17,600人
9,400人
暴力団構成員
8,200人
準構成員等
出典:警察庁「令和7年における組織犯罪の情勢」。2025年末の概数。
警察庁の統計によると、暴力団構成員等の総数は2005年以降、減少傾向が続いている。
2019年末には2万8,200人だったが、2025年末には1万7,600人となった。
わずか6年間で約1万600人減少した計算になる。
また、2025年中の暴力団構成員等の検挙人員は7,335人で、前年より914人、11.1%減少した。
罪種別の検挙人員では、覚醒剤取締法違反が1,478人、傷害が938人、詐欺が875人、窃盗が617人となっている。
暴力団が減少しても組織犯罪がなくならない理由注意したいのは、暴力団の構成員が減少したからといって、組織犯罪そのものが消えたわけではないことだ。
警察庁は、匿名・流動型犯罪グループ、いわゆる「トクリュウ」への対策も強化している。
トクリュウは、従来型の暴力団とは異なる特徴を持つ。
| 比較項目 | 従来型の暴力団 | 匿名・流動型犯罪グループ |
|---|---|---|
| 組織構造 | 組長を頂点とした階層型 | 中核人物が匿名化されやすい |
| 人間関係 | 擬制的な血縁関係などで結び付く | SNSなどを通じた緩やかな結び付き |
| メンバー | 比較的固定的な組織構成 | 犯罪ごとに実行役などが入れ替わる |
| 資金獲得 | 組織の威力を背景とした活動など | 特殊詐欺、窃盗、SNS型詐欺など多様 |
警察庁の2026年公表資料では、トクリュウの中核部分が匿名化され、SNSや求人サイトなどを通じて実行犯を集める特徴が指摘されている。
加えて、暴力団の現役・元構成員がトクリュウの中核を担うケースや、グループから暴力団へ資金が流れるケースも確認されている。
つまり、暴力団とトクリュウは同じものではないが、両者の間に人的・経済的なつながりが存在する場合もある。
ヤクザは現在も縄張りや上納金を維持しているのか従来型の組織構造が完全になくなったわけではない。
警察庁の資料でも、暴力団の中には組織実態を不透明化し、資金獲得活動を多様化させることで、人的・経済的な基盤を維持しているものがあると指摘されている。
縄張りや上納金という概念も、暴力団の組織構造を理解するうえで重要だ。
ただし、構成員が減少し、企業や金融機関との取引が制限されるなか、かつてのような組織運営を維持することは難しくなっている。
映画『ヤクザと家族 The Family』の2019年の描写は、こうした構造的な変化を物語として表現している。
【ヤクザを辞めた後の人生】5年ルールと家族が直面する社会的制約
暴力団対策を考えるとき、見落とされやすいのが、組織から離脱した人のその後の人生だ。
暴力団の弱体化には、構成員を減らすだけでなく、離脱者が再び組織に戻らず、一般社会で生活できる環境をつくることも必要になる。
ヤクザの5年ルールとは?「5年ルール」とは、一般に、暴力団を離脱してから5年間は反社会的勢力の排除対象として扱われることが多いという慣行を指す。
銀行などの金融機関では、反社会的勢力排除条項に、暴力団員でなくなった時から5年を経過していない人を対象として含めている例がある。
このため、暴力団を辞めた直後に銀行口座を開設したり、金融サービスを利用したりする際に、審査上の制約を受ける場合がある。
ただし、ここには大切な注意点がある。
5年ルールは、離脱者のあらゆる社会生活を一律に禁止する法律ではない。
暴対法にも、元指定暴力団員が組織の威力を常習的に示すなど、一定の条件下で準暴力的要求行為を禁止する規定がある。
一方、銀行などの5年間という基準は、反社会的勢力排除のための契約・審査上の取り扱いとして設けられている。
両者を同じものとして理解するのは正確ではない。
銀行口座や携帯電話の契約が難しくなる理由暴力団員や元構成員が社会生活を再建する際には、金融機関との関係が大きな壁になることがある。
例えば、給与を受け取るためには銀行口座が必要だが、過去の所属歴などによって審査が難しくなるケースがある。
また、携帯電話や賃貸住宅などの契約でも、事業者ごとの反社会的勢力排除方針や契約条項が影響する場合がある。
ここで問題となるのは、仕事に就こうとしても、給与を受け取る口座を作れないといった生活再建上の矛盾だ。
そのため、警察庁は2022年、暴力団離脱者の口座開設を支援する仕組みを策定した。
具体的には、次のような条件を確認したうえで支援を行う。
- 暴力団から離脱していること。
- 警察や都道府県暴力追放運動推進センターの支援によって協賛企業に就労していること。
- 本人と雇用企業が支援に同意していること。
- 支援が適切でない事情がないこと。
警察や暴力追放運動推進センター、協賛企業が連携して金融機関への説明や口座開設を支援する仕組みだ。
金融庁も金融機関に対し、日常生活に必要な口座まで一律に排除する趣旨ではないことを周知している。
ヤクザと家族:本人だけではなく周囲にも及ぶ影響映画『ヤクザと家族 The Family』が深く掘り下げているのが、暴力団員と家族の関係だ。
山本が14年の服役を終えて戻ってきたとき、かつての仲間や恋人との関係は以前のままではなかった。
特に工藤と娘の生活に及ぶ影響は、暴力団員の社会的な立場が家族の生活にも波及することを象徴している。
SNSで情報が広がり、事実と異なる情報まで混ざることで、工藤は職場で居場所を失い、娘も学校で影響を受ける。
細野についても、組を離脱して働いているにもかかわらず、山本との関係が知られることを避けようとする姿が描かれる。
この展開から読み取れるのは、本人が組織を離れたとしても、過去の人間関係や社会的な評価から完全に自由になるとは限らないという問題だ。
ただし、法律上、家族というだけで自動的に暴力団員や反社会的勢力になるわけではない。
親族であることと、暴力団の活動に協力したり、資金提供をしたりすることは別の問題である。
暴排政策の目的は、暴力団の資金源や活動基盤を断つことにある。一方で、離脱者本人や家族が社会復帰を妨げられることは、再び組織に戻るリスクにもつながり得る。
だからこそ、暴力団排除と離脱者の社会復帰支援は、切り離して考えることができない課題なのだ。
【ヤクザとはに関するよくある質問(FAQ)】
Q1:ヤクザと暴力団は同じ意味ですか?
A1:日常会話ではほぼ同じ意味で使われますが、厳密には異なります。ヤクザは一般的な呼称であり、暴力団は暴力団対策法第2条で定義された組織です。また、指定暴力団は公安委員会から正式に指定された団体を指します。
Q2:ヤクザの組長・組員・シノギとは何ですか?
A2:組長は組織のトップ、組員は組織に所属する構成員です。シノギは組織や構成員が収入を得るための資金獲得活動を意味します。縄張りは影響力を持つ地域、上納金は下位組織などから上位者へ渡される資金を指します。
Q3:ヤクザを辞めれば5年後には普通に生活できますか?
A3:5年が経過すれば、すべての契約や社会的制約が自動的に解消されるわけではありません。離脱状況や現在の関係性、契約先の審査基準などによって扱いは異なります。警察や暴力追放運動推進センターによる離脱・就労・口座開設支援も用意されています。
Q4:ヤクザの家族も法律上、反社会的勢力になるのですか?
A4:家族であるという理由だけで、本人が暴力団員や反社会的勢力に該当するわけではありません。ただし、暴力団の活動への協力や資金提供など、具体的な関係性があれば別途判断の対象になります。
Q5:2026年現在、日本の暴力団は何人いますか?
A5:警察庁が2026年4月に公表した2025年末の統計では、暴力団構成員等は約1万7,600人です。このうち構成員は約9,400人、準構成員等は約8,200人で、いずれも含めた総数は過去最少となっています。
ヤクザとは、一般に暴力団やその構成員を指す呼び方であり、暴力団は法律上の定義を持つ組織だ。
組長を頂点とした階層構造、親分・子分の関係、シノギ、縄張り、上納金などは、従来の暴力団を理解するための基本的な要素となる。
一方、1992年の暴力団対策法施行、2011年までの暴力団排除条例の全国展開を経て、暴力団が活動できる社会的・経済的な基盤は大きく制限されてきた。
2026年現在、構成員等は過去最少となっているものの、匿名・流動型犯罪グループとの関係や、資金獲得活動の多様化など、新たな課題も残されている。
映画『ヤクザと家族 The Family』が1999年、2005年、2019年という3つの時代を通して描いたのは、組織の衰退だけではない。組織に所属する人間、その家族、離脱した人々が社会との関係をどのように変えていくのかという問題でもある。
【プロの結論】
ヤクザを理解するうえで重要なのは、単に「怖い人たちの集団」というイメージで捉えないことだ。
暴力団は、人的な支配関係と資金獲得活動を結び付けた組織であり、その活動が一般社会に与える被害を防ぐために、法律や条例による排除政策が進められてきた。
同時に、暴力団からの離脱を促し、再び犯罪に関わらずに生活できる環境を整えることも、社会全体の安全につながる。
暴力団排除と社会復帰支援。この2つを両立させることこそ、これからの日本の組織犯罪対策を考えるうえで欠かせない視点である。