胃がんと診断されたとき、最も気になることの一つが「どのくらいの確率で長く生きられるのか」という問題です。胃がんの生存率は進行度によって大きく異なり、早期のⅠ期では5年ネット・サバイバルが90%を超える一方、Ⅲ期では約4割、Ⅳ期では1桁台まで低下します。国立がん研究センターの院内がん登録データでは、胃がんの5年生存率として70.6%という単年集計値が紹介される一方、2014~2015年診断例をまとめた公式集計では70.2%、2012年診断例の10年生存率は57.9%となっています。
ただし、これらは同じ患者集団を5年後と10年後に追跡した数字ではありません。診断年や集計方法、実測生存率とネット・サバイバルの違いによって数値は変わります。2026年11月時点で参照できる公的データをもとに、ステージ別の生存率、早期発見と内視鏡治療の関係、統計を読む際の注意点まで整理します。
【2026年最新】胃がん生存率の全体像と5年・10年の基本データ

胃がんは、胃の内側を覆う粘膜の細胞から発生する悪性腫瘍です。国立がん研究センターのがん情報サービスによると、胃がんは早期には自覚症状がほとんどなく、かなり進行しても症状が現れない場合があります。
日本では胃がんの患者数も依然として多く、2021年には約11万3,000例が新たに診断されています。2026年版「がんの統計」でも、胃がんは男女計の罹患数で上位に位置しています。
胃がんの治療成績を調べる際によく使われるのが、5年生存率と10年生存率です。5年生存率は診断から5年後、10年生存率は診断から10年後の生存状況を示す指標です。
胃がん全体の5年生存率70.6%は何を意味する?胃がんの全体的な5年生存率として紹介される70.6%は、2015年診断例の単年データに基づく参考値です。つまり、統計上の対象集団において、診断から5年後の生存状況を示した数値です。
一方、国立がん研究センターが公表した2014~2015年診断例の2年間合算データでは、胃がん全体のネット・サバイバルは70.2%でした。95%信頼区間は69.9~70.6%です。70.6%という数字を見かけた場合には、単年集計なのか、2年間の合算値なのか、信頼区間の上限なのかを確認する必要があります。
また、2025年2月に公表された2012年診断例の10年生存率では、胃がん全体のネット・サバイバルが57.9%となっています。
この5年と10年の数字は診断年が異なるため、同じ患者集団の生存率が70.6%から57.9%に低下したことを意味するわけではありません。異なる診断年、対象施設、集計条件による別々の統計として理解することが大切です。
5年生存率と10年生存率の違い5年生存率は、がん治療の成績を把握する際に広く使われてきた指標です。ただし、5年経過した時点で必ず再発しなくなるわけでも、すべての患者が治癒したと判断できるわけでもありません。
10年生存率は、より長期的な経過を把握するための指標です。胃がんでは10年経過後も生存状況に差がみられ、病期によって長期的な見通しが異なります。
国立がん研究センターの2025年公表資料では、2012年診断例の10年生存率集計に361施設、394,108例が含まれています。このうち胃がんは56,237例で、全体のネット・サバイバルは57.9%でした。
【比較表】胃がんのステージ別5年・10年生存率を徹底比較
胃がんの生存率を理解するうえで、最も大きなポイントがステージ(病期)による違いです。
ステージは、がんの深さ、リンパ節への転移、離れた臓器への転移という3つの要素を組み合わせて判断します。Ⅰ期からⅣ期へ進むほど、一般的にがんの広がりが大きくなります。
以下は、国立がん研究センターの院内がん登録生存率集計をもとにした比較です。5年は2014~2015年診断例、10年は2012年診断例であり、それぞれ異なる集団の統計です。
| ステージ | 5年ネット・サバイバル (2014~2015年) |
10年ネット・サバイバル (2012年) |
特徴 |
|---|---|---|---|
| Ⅰ期 | 92.8% | 79.1% | 早期で高い生存率 |
| Ⅱ期 | 67.2% | 52.0% | リンパ節転移などに注意 |
| Ⅲ期 | 41.3% | 29.3% | 進行に伴い生存率が低下 |
| Ⅳ期 | 6.3% | 3.9% | 遠隔転移を伴う進行がん |
| 全体 | 70.2% | 57.9% | 病期不明例などを含む |
出典:国立がん研究センター「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム」「院内がん登録2012年10年生存率集計」。2014~2015年の5年集計は447施設、胃がんの集計対象は103,113例です。10年集計は361施設、胃がん56,237例が対象です。
胃がんⅠ期の生存率はなぜ高いのか胃がんⅠ期の5年ネット・サバイバルは92.8%、10年では79.1%です。ほかの病期と比較して高い数値となっています。
その背景には、がんが比較的限られた範囲にとどまっている段階で発見され、根治を目指した治療を選択できる症例が多いことがあります。
ただし、Ⅰ期だから必ず内視鏡治療だけで済むという意味ではありません。がんの深さやリンパ節転移の可能性などによって、内視鏡治療と外科手術のどちらが適切かは異なります。
胃がんⅢ期の生存率が低下する理由Ⅲ期になると、5年ネット・サバイバルは41.3%、10年では29.3%となります。
Ⅰ期との大きな違いは、がんの深達度やリンパ節転移の状況です。病変が胃の壁の深い部分まで広がっていたり、複数のリンパ節に転移していたりすることで、治療の難易度が高くなる場合があります。
一方、Ⅲ期という分類だけで治療後の経過が決まるわけではありません。手術でがんを切除できるか、術後補助化学療法を行えるか、患者本人の体力や合併症の有無なども関係します。
Ⅳ期の生存率は低いが、統計だけで治療の可能性は決まらないⅣ期は遠隔転移を伴うなど、病気が広範囲に進行した状態です。5年ネット・サバイバルは6.3%、10年では3.9%となっており、厳しい数字です。
ただし、Ⅳ期と診断された患者の状態は一様ではありません。転移の場所や数、がんの性質、薬物療法への反応、栄養状態、全身状態などによって治療方針や経過は変わります。
統計上の割合を、そのまま個人の余命や治療の限界として受け止める必要はありません。
【生存率の本質】実測生存率とネット・サバイバルは何が違う?
胃がん生存率を調べる際に見落とされやすいのが、実測生存率とネット・サバイバルの違いです。同じ患者集団を対象にしても、計算方法によって結果は変わります。
実測生存率は実際の死亡をすべて含めた数字実測生存率は、がんによる死亡だけでなく、心疾患や脳血管疾患、その他の病気、事故など、死因にかかわらずすべての死亡を計算に含めた指標です。
患者集団の実際の生存状況を把握するために役立ちます。年齢や併存疾患の影響も反映されるため、患者や家族が長期的な生活を考える際にも参考になります。
ネット・サバイバルはがん以外の死亡の影響を調整するネット・サバイバル(Net Survival、純生存率)は、統計モデルを使い、「がんのみが死因となる状況」を仮定して算出する指標です。
一般人口の期待生存率で補正する相対生存率とは計算方法が異なります。国立がん研究センターは、2010年10年生存率や2014~2015年5年生存率の集計から、従来の相対生存率に代えてネット・サバイバルを採用しています。
そのため、異なる時期の統計を比較するときには、単純に数字の大小だけを見るのではなく、どの指標が使われているかを確認する必要があります。
胃がんの実測生存率とネット・サバイバルの比較実際の公表値を見ると、両者の違いが分かります。
2014~2015年診断例の胃がん全体では、5年実測生存率が62.3%、ネット・サバイバルが70.2%でした。
2012年診断例の10年集計では、実測生存率が47.6%、ネット・サバイバルが57.9%です。
いずれもネット・サバイバルのほうが高い結果です。特に長期間の追跡では、高齢患者ががん以外の原因で亡くなる影響も大きくなるため、両指標の差が生じます。
したがって、インターネット上で「胃がんの生存率は約70%」という数字を見たときには、それが実測生存率なのか、ネット・サバイバルなのかを確認することが欠かせません。
【早期発見が鍵】胃がんは内視鏡治療で治せるのか
胃がんの予後を考えるうえで、早期発見は大きな意味を持ちます。早期に発見できれば、胃の一部を切除する手術を行わず、内視鏡で病変を取り除ける場合があるからです。
早期胃がんとステージⅠ期は同じ意味ではないまず押さえておきたいのが、早期胃がんとステージⅠ期の違いです。
早期胃がんは、がんの深さが胃壁の粘膜または粘膜下組織までにとどまっている状態を指します。一方、ステージは深達度、リンパ節転移、遠隔転移を組み合わせた分類です。
つまり、早期胃がんという言葉は主にがんの深さを表し、ステージは病気の広がりを総合的に表しています。両者を完全に同じ意味として扱うことはできません。
内視鏡治療の代表的な方法はEMRとESD国立がん研究センターのがん情報サービスによると、内視鏡治療は、がんが胃の粘膜にとどまり、リンパ節転移の可能性が極めて低く、一度に切除できると判断される場合に行うのが原則です。
代表的な方法は次の2つです。
- EMR(内視鏡的粘膜切除術):内視鏡の先端から輪状のワイヤーをかけ、病変を切除する方法。一般に2cm以下で潰瘍のない病変が対象となります。
- ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術):高周波ナイフを使用し、粘膜下層から病変を剥がすように切除する方法。EMRより大きな病変などにも対応できる場合があります。
内視鏡治療は胃を残せるため、外科手術と比べて身体への負担が少なく、食生活への影響も抑えられる利点があります。
ただし、切除後の病理診断によって、がんが確実に取りきれているか、リンパ節転移の可能性が低いかを確認します。条件を満たさない場合には、追加手術が必要になることもあります。
胃がん検診は50歳から2年に1回が基本早期胃がんは自覚症状が乏しいため、症状が出る前に検診を受けることが大切です。
厚生労働省の指針に基づく胃がん検診の対象は、男女とも50歳以上で、受診間隔は原則2年に1回です。検査方法は胃部X線検査または胃内視鏡検査です。
ピロリ菌を除菌した場合でも、胃がんの発生リスクがゼロになるわけではありません。除菌後も医師と相談しながら胃内視鏡検査を継続することが大切です。
なお、胃の痛みや不快感、食欲不振、食事がつかえるなどの症状がある場合は、次の検診を待つのではなく医療機関を受診してください。検診は無症状の人を対象とするものであり、症状がある場合には診断のための検査が必要です。
【統計の正しい見方】院内がん登録生存率集計結果閲覧システムの活用法
胃がんの生存率を詳しく調べたい場合には、国立がん研究センターの「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム」が役立ちます。
このシステムでは、全国のがん診療連携拠点病院などから収集した院内がん登録データをもとに、胃がんの生存率を条件別に確認できます。
生存率を調べる際に確認したい4つの項目- 診断年:2014~2015年の5年生存率なのか、2012年の10年生存率なのかを確認する。
- 病期:全体だけでなく、Ⅰ期、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期を個別に見る。
- 年齢:全年齢の集計と、40代・50代・60代・70代・80歳以上などの集計を区別する。
- 手術の有無:手術を受けた患者と受けていない患者では、対象となる患者の背景が異なる。
例えば、60代男性のⅠ期胃がんについて調べたい場合は、性別を男性、病期をⅠ期、年齢階級を60代に設定します。手術の有無を問わず全体を確認したい場合は、手術の有無を「全体」に設定します。
生存率を比較するときに注意したい落とし穴一つ目は、診断年の違いです。治療法は進歩しているため、過去の患者集団の結果が、2026年に診断される患者の予後をそのまま示すわけではありません。
二つ目は、対象施設の違いです。院内がん登録は、がん診療連携拠点病院などで診断・治療された患者の情報を集計しています。日本全国のすべての患者を無条件に代表する統計ではありません。
三つ目は、病期不明例の扱いです。全体の生存率には病期不明などの症例も含まれる場合があります。そのため、各ステージの数値を単純に平均しても全体の生存率にはなりません。
四つ目は、個人差です。同じステージでも、年齢、がんの性質、合併症、治療への反応などによって経過は異なります。統計は集団の傾向を示すものであり、個人の予後を確定するものではありません。
胃がんの生存率を調べる人に適した判断基準生存率の数字を参考にする場合は、目的によって見るべき指標を変えると理解しやすくなります。
- がん治療全体の傾向を知りたい人:ネット・サバイバルを参考にする。
- 患者集団の実際の生存状況を知りたい人:実測生存率を確認する。
- 長期的な経過を知りたい人:5年だけでなく10年生存率も確認する。
- 自分の治療後の見通しを知りたい人:統計に加えて、担当医から病理結果や治療内容に基づく説明を受ける。
【プロの結論】胃がん生存率で本当に見るべきなのは早期発見と治療条件
胃がんの生存率を読み解くと、最も明確に表れているのはステージによる差です。Ⅰ期の5年ネット・サバイバルは92.8%である一方、Ⅲ期は41.3%、Ⅳ期は6.3%です。診断時点での病気の広がりが、その後の治療選択や予後に大きく関係していることが分かります。
しかし、生存率の数字だけで治療の良し悪しや個人の将来を判断することはできません。
専門的な観点から特に重視したいのは、次の3点です。
1. 70.6%という全体平均だけで判断しない全体の生存率には、Ⅰ期からⅣ期まで異なる病状の患者が含まれています。全体平均が約70%だからといって、すべての患者の予後が同じというわけではありません。最初に確認すべきなのは、自分の病期と治療前後の状態です。
2. 内視鏡治療の適応はステージだけで決まらない早期発見によって内視鏡治療が可能になる場合はありますが、最終的な判断には、がんの深さ、潰瘍の有無、大きさ、組織型、リンパ節転移の可能性などが関係します。胃を残せるかどうかについては、内視鏡治療後の病理診断も含めて担当医に確認することが大切です。
3. 5年後だけでなく、その先の生活も考える胃がんは5年生存率だけでは長期的な経過を十分に把握できません。10年生存率や治療後の再発リスク、栄養状態、胃切除後の生活なども含めて考える必要があります。
また、Ⅲ期やⅣ期であっても、年齢や全身状態、治療効果によって経過は異なります。治療の選択肢については、担当医と十分に話し合い、必要に応じてセカンドオピニオンを活用することも一つの方法です。
胃がん生存率に関するよくある質問(FAQ)
Q1:胃がん全体の5年生存率は何%ですか?
A1:2015年単年の参考値として70.6%が紹介されています。一方、国立がん研究センターの2014~2015年診断例の公式集計では70.2%です。集計対象年や計算方法によって数字が異なるため、診断年と指標を確認してください。
Q2:胃がんⅠ期の5年生存率はどれくらいですか?
A2:2014~2015年診断例の院内がん登録集計では、ネット・サバイバルは92.8%です。10年生存率については、2012年診断例で79.1%となっています。
Q3:胃がんⅢ期でも長期生存は可能ですか?
A3:可能性はあります。2012年診断例の10年ネット・サバイバルは29.3%です。これは集団全体の統計であり、個人の経過は手術の可否、術後治療、全身状態などによって異なります。
Q4:胃がんの10年生存率は何%ですか?
A4:2012年診断例の院内がん登録データでは、胃がん全体のネット・サバイバルは57.9%です。Ⅰ期79.1%、Ⅱ期52.0%、Ⅲ期29.3%、Ⅳ期3.9%となっています。
Q5:実測生存率とネット・サバイバルはどちらを見ればよいですか?
A5:目的によって異なります。患者集団の実際の生存状況を知りたい場合は実測生存率、がん以外の死亡の影響を調整したがんの予後指標を知りたい場合はネット・サバイバルが参考になります。
Q6:胃がんは内視鏡治療だけで治せますか?
A6:条件を満たす早期胃がんであれば、EMRやESDによる内視鏡切除が選択される場合があります。ただし、リンパ節転移の可能性や病理診断の結果によっては追加手術が必要です。
Q7:胃がん検診は何歳から受ければよいですか?
A7:国の指針に基づく胃がん検診は、男女とも50歳以上が対象で、原則2年に1回です。胃の痛みや食欲不振などの症状がある場合は、年齢や次回検診の時期にかかわらず医療機関を受診してください。
2026年時点で参照できる公的統計では、胃がんの生存率はステージによって大きな差があります。2014~2015年診断例の5年ネット・サバイバルは全体70.2%、Ⅰ期92.8%、Ⅲ期41.3%。2012年診断例の10年ネット・サバイバルは全体57.9%、Ⅰ期79.1%、Ⅲ期29.3%です。
また、70.6%という数字も2015年単年の参考値として流通していますが、2014~2015年の合算値とは集計条件が異なります。5年と10年の数字を同じ患者集団の経過として比較しないことも大切です。
胃がんの治療成績を考えるうえで、重要なのは単純な平均値ではなく、発見時のステージ、がんの性質、治療方法、患者本人の健康状態です。早期に発見できれば、内視鏡治療によって胃を残せる可能性もあります。
胃がんは早期には自覚症状が乏しいため、50歳以上の人は定期的な検診を心がけ、症状がある場合には検診を待たずに受診することが大切です。
生存率の数字は、患者一人ひとりの未来を決めるものではありません。統計を正しく理解し、担当医と治療方針を相談しながら、早期発見と適切な治療につなげていくことが何より重要です。
主な参照資料(公的機関)
- 国立がん研究センター「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム」:
- 国立がん研究センター「院内がん登録2012年10年生存率集計」:
- 国立がん研究センター「胃がん 治療」:
- 国立がん研究センター「胃がん検診」: