最初に知っておきたいのは、「世界一歯並びが悪い人」という正式な称号を持つ人物は確認されていないという点だ。
世界ランキングは存在するのか歯並びの悪さには、いくつもの種類がある。
- 叢生(そうせい):歯が重なり、ガタガタに並んでいる状態
- 上顎前突:上の前歯や上顎が前に出ている状態
- 下顎前突:下の歯や下顎が前に出ている状態
- 開咬:奥歯を噛み合わせても前歯が閉じない状態
- 交叉咬合:上下の歯の噛み合わせが横方向にずれている状態
これらは原因も症状も異なる。前歯の見た目だけで順位を決めることはできず、噛み合わせや顎の骨格まで含めた評価が必要になる。
日本口腔外科学会も、歯並びが悪くなる原因として遺伝や顎の大きさなどを挙げている。
つまり、歯の重なりが極端な人と、顎の骨格に大きな問題がある人では、単純な比較が成立しない。
ギネス世界記録に登録された人物はいる?ここで混同されやすいのが、歯に関するギネス世界記録だ。
(Prathab Muniandy)
42本
男性の口腔内最多歯数
マレーシアの男性。2023年12月に歯科医2人による検査で42本の萌出歯が確認され、男性の最多歯数として認定された。
ギネス世界記録の2026年3月5日付の記事でも紹介されている人物だ。
ただし、これは歯並びの悪さではなく、通常より歯の本数が多いことを競う記録である。記事では、本人の歯の多くはまっすぐ生えており、大きな問題はないと紹介されている。
したがって、彼を「世界一歯並びが悪い人」と紹介するのは誤りだ。
Yahoo! JAPANやInstagramで話題になる人物の正体Yahoo! JAPANで「世界一歯並びが悪い人」と検索すると、歯並びに関する解説記事や矯正歯科の情報、Instagram関連の検索結果が表示されることがある。
しかし、検索結果に同じキーワードが使われているからといって、すべてが同一人物についての情報とは限らない。
特にInstagramでは、「世界一」「驚きの歯並び」といった目を引く表現が投稿のタイトルや宣伝に使われることがある。
今回話題となっている検索結果にも、笑顔や歯列矯正のメリットを訴える一般的な内容が含まれている。そこから特定の人物の氏名や、世界記録の認定を導き出すことはできない。
検索で目立つ人物と、医学的・公式に認定された人物は別物である。 これが最初に整理しておきたいポイントだ。
【海外の評価】外国人の76%が日本人の歯並びを悪いと感じた調査とは?
「日本人は歯並びが悪い」という話題が海外の評価とともに語られる際、頻繁に登場するのが外国人の76%という数字だ。
この数字には実際の調査が存在する。
76%の調査は2012年に実施されていた調査を実施したのは、マウスピース型矯正装置を提供するアライン・テクノロジー・ジャパン株式会社だ。
2012年4月18日に発表された「日本人の歯並びに関する意識調査」では、日本在住の外国人100人を対象に、日本人の歯並びについて質問している。
結果は次のとおりだった。
- 日本人の歯並びが悪い:76%(76人)
- 日本人の歯並びが良い:4%(4人)
加えて、歯並びと笑顔の魅力に関係があると回答した人は83%だった。
この結果が、現在も「外国人の76%が日本人の歯並びを悪いと感じている」という情報の根拠になっている。
ただし、ここで重要なのは調査対象だ。
対象者は世界中の外国人を無作為に抽出した集団ではなく、在日外国人向け雑誌の読者モニター100人である。
そのため、76%という数字を「世界の外国人全体の76%が日本人の歯並びを悪いと思っている」と解釈することはできない。
正確には、2012年に実施された在日外国人100人へのアンケートで、76%がそのように回答したという結果である。
日本・アメリカ・中国の矯正事情を比較同じ2012年の調査では、日本、アメリカ、中国の3都市でも比較調査が行われた。
対象は東京、ニューヨーク、上海の一般男女各200人、合計600人だ。
歯並びがもともと良くないと回答した人の割合は、次のとおりだった。
- 日本:61.0%
- アメリカ:58.0%
- 中国:71.5%
一方、歯並びが良くない人のうち、矯正治療を受けた割合は次の結果だった。
- 日本:21.3%
- アメリカ:50.0%
- 中国:23.8%
この調査で注目したいのは、日本とアメリカの差だ。
歯並びが良くないと自己認識している人の割合は、日本とアメリカで大きく違わない。しかし、矯正治療を受けた割合には差があった。
つまり、歯並びの問題は日本人にだけ多いというよりも、歯並びをどう認識し、どの程度治療につなげるかという社会的な違いにも関係している。
【2026年最新比較】日本と海外の歯列矯正事情・普及率を検証
2012年の調査だけでは、2026年現在の日本人の歯並びや矯正治療の状況を正確に把握することはできない。
そこで参考になるのが、厚生労働省が実施した令和6年(2024年)歯科疾患実態調査だ。
2026年時点で参照できる最新の全国規模の公的調査として、矯正治療の経験についてもデータが公表されている。
厚生労働省の2024年調査で判明したこと同調査の3歳以上の対象者について、矯正治療の経験を男女別に集計すると、次のようになった。
| 項目 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 矯正治療経験あり | 6.0% | 10.6% |
| 現在治療中 | 1.6% | 1.8% |
| 過去に治療経験あり | 4.5% | 8.8% |
| 調査対象者数 | 3,758人 | 4,632人 |
この結果から、女性のほうが矯正治療経験者の割合が高いことが分かる。
ただし、この数字は全国民のうち現在矯正治療を受けている人の割合ではない。現在治療中の人と過去に治療を受けた人を合わせた経験率である。
年齢別に見ると、男性では15~19歳の治療経験率が31.0%、女性では25~29歳が33.8%と、それぞれの年代で高い結果だった。
子どもや若年層だけでなく、成人してから矯正治療を経験する人もいることが読み取れる。
日本と海外の比較で注意したいこと2012年の調査では、歯並びが良くないと回答した人のうち、矯正治療を受けた割合がアメリカ50.0%、日本21.3%だった。
一方、2024年の厚生労働省調査は日本国内の治療経験を集計したものだ。
対象者や調査方法が違うため、両者を直接比較して日本の矯正普及率が何ポイント上昇したと判断することはできない。
また、海外の矯正治療率についても、国ごとに医療制度、保険適用範囲、治療費、調査対象年齢が異なる。
単純な世界ランキングより、各国の医療制度と治療機会を踏まえた比較が必要だ。
日本で矯正治療が一般化しにくい理由2012年の調査では、矯正装置をつけることに心理的な抵抗があると回答した日本人は72.0%だった。
加えて、矯正装置による不自由をつらいと感じる割合は63.0%。
一方、目立たない矯正装置があれば治療したいと回答した人は65.0%だった。
この結果からは、歯並びを整えること自体に反対しているのではなく、治療中の見た目や生活上の負担が障壁になっている可能性が見えてくる。
もう一つの大きな問題が費用だ。
日本では一般的な歯列矯正は原則として公的医療保険の対象外であり、自費診療となる。
ただし、厚生労働大臣が定める疾患に起因する咬合異常、一定の永久歯の萌出不全、手術を必要とする顎変形症など、所定の条件を満たす場合は保険診療の対象になる。
指定された施設基準を満たす医療機関で治療することも条件となる。
こうした費用面の違いも、日本で矯正治療を始める人の割合に影響する要素だ。
【原因を解説】日本人の歯並びが悪い理由は遺伝と顎の大きさ?
日本人の歯並びが海外で話題になる背景には、遺伝的な特徴や顎の骨格に関する問題もある。
ただし、日本人だから必ず歯並びが悪くなるという医学的な決まりはない。
1. 遺伝による歯と顎の大きさの違い歯並びを左右する大きな要素の一つが、歯の大きさと顎の大きさのバランスだ。
例えば、歯が大きいのに歯列を収める顎のスペースが小さいと、すべての歯がきれいに並ぶための場所が足りなくなる。
その結果、歯が重なったり、前後にずれたりする。
この状態を叢生という。
遺伝的要因には、次のようなものがある。
- 顎の骨の大きさ
- 上顎と下顎の位置関係
- 歯の大きさや形
- 歯の本数や生え方
- 顔面の骨格
日本口腔外科学会も、遺伝的な要因や顎の小ささを歯並びが悪くなる原因として挙げている。
ただし、歯並びを遺伝だけで説明することはできない。
2024年に発表された顎変形症に関する研究でも、歯や顎骨の大きさ、形、位置関係、成長発育、力学的な刺激など、複数の要因が関係すると論じられている。
2. 口呼吸や舌の癖など生活習慣の影響歯並びには、幼少期からの口腔習慣も関係する。
代表的なものは以下のとおり。
- 指しゃぶり
- 舌を前歯に押し付ける癖
- 口呼吸
- 異常な飲み込み方
- 乳歯の早期喪失
例えば、舌で前歯を押し続ける癖があると、前歯が徐々に前方へ傾くことがある。
また、乳歯が早く抜けると、永久歯が生えるためのスペースに影響する場合もある。
こうした要因は、遺伝とは別に歯並びへ影響する後天的な問題だ。
3. 八重歯をかわいいと感じる日本独自の文化歯並びの価値観には文化的背景もある。
日本では、八重歯をかわいらしさや若々しさの象徴として捉える人もいる。
一方、海外の一部の地域では、整った歯並びが清潔感や自己管理の象徴として評価される傾向がある。
ただし、海外でも地域や個人によって美的感覚は異なる。八重歯を好む人が日本にしかいないわけではない。
重要なのは、歯並びの美しさに対する評価が、医学的な正常咬合の基準と必ずしも一致しないことだ。
4. 矯正治療の費用と社会的な認識日本では、歯並びを整えることの重要性を理解していても、実際の治療に踏み切れない人がいる。
2012年の調査では、日本人の85.0%が歯並びによって笑顔の印象が左右されると回答していた。
つまり、歯並びへの関心が低いから治療しないという単純な構図ではない。
装置の見た目、治療期間、費用、通院の負担など、複数の事情が重なっている。
この認識と行動のギャップこそ、日本の矯正事情を理解するうえで要点だ。
【特徴と注意点】歯並びが悪い人に見られる症状と矯正を後悔する理由
歯並びが悪い人には、見た目だけではなく、噛み合わせや口腔機能に関する問題が見られる場合がある。
歯並びが悪い人に見られる代表的な特徴
叢生(乱ぐい歯)
歯が重なって生えている状態。歯ブラシが届きにくい部分ができ、清掃が難しくなる場合がある。
上顎前突(出っ歯)
上の前歯が前方に出ている状態。口を閉じにくかったり、前歯をぶつけやすかったりする場合がある。
下顎前突(受け口)
下の歯が上の歯より前に出ている状態。骨格的な問題が関係している場合もある。
開咬
奥歯を噛み合わせても前歯が閉じない状態。食べ物を前歯で噛み切りにくいことがある。
日本矯正歯科学会は、不正咬合を放置した場合に、食べ物が噛みにくい、歯周組織への負担、口臭、顎関節への負担などの問題が生じる可能性を説明している。
歯列矯正を「やらなきゃよかった」と感じる理由矯正治療にはメリットだけでなく、負担やリスクもある。
治療経験者が後悔につながりやすいと感じる代表的な論点は次のとおりだ。
費用が想定より大きくなった
矯正治療は長期にわたるため、装置代だけでなく、検査費用や調整費用、保定装置などの費用も考える必要がある。
痛みや違和感が続いた
歯を動かす際には痛みや圧迫感が出る場合がある。装置によっては食事や発音にも影響する。
治療期間が長引いた
歯の動き方には個人差があり、当初の計画より長くかかる場合がある。
歯根吸収や歯肉退縮などのリスクがあった
矯正治療では、歯根が短くなる歯根吸収や歯肉が下がる歯肉退縮などが起こる可能性がある。
治療終了後に後戻りした
矯正装置を外した後も、歯は元の位置に戻ろうとする傾向がある。保定装置を適切に使用しないと後戻りが起こりやすくなる。
日本矯正歯科学会も、保定装置を使用しなかった場合に不正咬合が再発する傾向があると説明している。
矯正治療で後悔しないための判断基準矯正治療を検討する場合、次の点を事前に確認したい。
1. 歯並びだけでなく、噛み合わせや顎の状態まで検査しているか。
2. 治療期間と総費用が明確になっているか。
3. 抜歯の必要性について説明を受けているか。
4. 歯根吸収や歯肉退縮などのリスクを理解しているか。
5. 治療後の保定期間や通院計画が決まっているか。
特に注意したいのは、見た目だけを基準に治療方法を決めないことだ。
歯列矯正は歯を動かす医療行為であり、誰にでも同じ治療方法が適しているわけではない。
【プロの結論】世界一悪い歯並びという評価より大切な3つの視点
ここまでの調査から見えてくるのは、歯並びの問題には、医学的な側面と社会的な側面の両方があるということだ。
特に押さえたいのは次の3点である。
1. 歯並びの悪さに世界共通の順位はない歯並びの悪さには複数の種類があり、見た目の印象だけで医学的な重症度を決めることはできない。
SNSの写真や動画で極端な歯並びを見かけても、それだけで世界一と判断する根拠にはならない。
2. 日本人の歯並びへの海外評価は調査対象を理解する外国人の76%という数字は実際の調査結果だが、対象は日本在住の外国人100人であり、2012年のデータである。
また、2024年の厚生労働省調査では、日本国内の矯正治療経験について男女差や年代差が確認されている。
この2つを合わせて考えると、日本人の歯並びを単純に良い・悪いで分類するより、治療を受ける環境や意識の違いを考えることが大切だ。
3. 美しさだけでなく健康面を評価する歯並びは笑顔の印象に影響するだけでなく、噛む機能や歯の清掃性にも関係する。
治療するかどうかは、他人からどう見られるかだけで決めるものではない。
噛み合わせに問題があるのか、口腔内の健康に影響があるのか、本人がどのような改善を望んでいるのかを総合的に考える必要がある。
【世界一歯並びが悪い人】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:世界一歯並びが悪い人は実在しますか?
A1:歯並びの悪さについて世界共通の公式認定やランキングは確認されていません。SNSなどで極端な歯並びの人物が紹介されることはありますが、世界一と認定された人物とは区別する必要があります。
Q2:外国人の76%が日本人の歯並びを悪いと思っているのは本当ですか?
A2:2012年のアライン・テクノロジー・ジャパンの調査では、日本在住の外国人100人のうち76人が日本人の歯並びを悪いと回答しています。ただし、世界中の外国人を対象にした調査ではありません。
Q3:日本人はなぜ歯並びが悪いと言われるのですか?
A3:歯と顎の大きさのバランス、遺伝的要因、口腔習慣などが関係します。また、矯正費用や装置の見た目に対する抵抗感など、治療環境の違いも影響します。
Q4:日本と海外では歯列矯正の普及率が違いますか?
A4:2012年の東京・ニューヨーク・上海の比較調査では、歯並びが良くない人の矯正治療経験率は日本21.3%、アメリカ50.0%、中国23.8%でした。ただし、これは当時の特定の調査対象における数字で、2026年の各国全体の普及率を示すものではありません。
Q5:大人になってからでも歯列矯正はできますか?
A5:成人でも矯正治療は可能です。ただし、歯周組織や顎の状態、噛み合わせなどによって治療方法が異なります。歯科医師による検査と診断が必要です。
Q6:歯列矯正をやらなきゃよかったと後悔するのはなぜですか?
A6:費用、痛み、治療期間の長さ、歯根吸収、歯肉退縮、治療後の後戻りなどが主な懸念事項です。治療前にリスクや保定計画まで確認しておくことが大切です。
「世界一歯並びが悪い人」という検索ワードには、多くの人が気になる意外性や好奇心が詰まっている。
しかし、2026年11月現在、世界共通の公式ランキングや、歯並びの悪さで世界一と認定された特定人物は確認されていない。
一方、日本人の歯並びに関する海外評価には、2012年の在日外国人100人を対象とした76%という調査結果が存在する。また、同年の日米中比較では、日本の矯正治療経験率がアメリカより低い結果だった。
加えて、厚生労働省の2024年歯科疾患実態調査からは、日本国内の矯正治療経験に関する最新の全国データも明らかになっている。
今後注目したいのは、マウスピース型矯正などの治療方法の選択肢、治療費へのアクセス、成人矯正の広がり、そして口腔機能を重視した診断の普及だ。
本当に大切なのは、世界一悪い歯並びを探すことではなく、自分の歯並びが健康や生活にどのような影響を与えているかを知ること。
歯並びの美しさは人それぞれの価値観によって異なる。だからこそ、SNS上の評価や海外の印象だけに左右されず、医学的な視点から自分に合った判断をすることが重要だ。
主な参考資料
- 厚生労働省「令和6年歯科疾患実態調査結果の概要」
- 公益社団法人日本矯正歯科学会「矯正歯科治療について」
- 日本口腔外科学会「歯並びが悪い」
- アライン・テクノロジー・ジャパン株式会社「日本人の歯並びに関する意識調査」(2012年4月18日)
- Guinness World Records「Man with the most teeth in the world flashes his record-breaking smile」(2026年3月5日)