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【まず基本を整理】酸化チタンとは何か?発がん性が問題になる理由

杉本 彩 杉本 彩 • 更新: • 公開: • 読了約 26 分
目次

酸化チタンは、化学式TiO₂で表される白色の無機化合物です。正式には二酸化チタンと呼ばれ、白色顔料として優れた着色力や隠蔽力を持つことから、塗料、プラスチック、紙、食品、化粧品などに利用されています。

特に重要なのが、酸化チタンには用途や製造方法によって異なる粒子径、結晶構造、表面処理があるという点です。

酸化チタンの主な用途
使用分野 主な用途
食品 白色着色料、食品添加物
化粧品 ファンデーション、フェイスパウダー
日焼け止め 紫外線散乱剤
塗料 白色顔料、遮蔽材
医薬品 錠剤などの着色・コーティング
工業製品 プラスチック、紙、印刷材料

酸化チタンが発がん性の観点から研究されている理由は、主に微細な粒子を吸入した場合の肺への影響と、ナノ粒子を含む食品添加物を経口摂取した場合の遺伝毒性に関する不確実性です。

ここで押さえたいのが、次の2つの概念です。

- ハザード(有害性): 物質そのものが、どのような条件で健康被害を引き起こす可能性を持つか。
- リスク: 実際にどの程度の量を、どの経路から、どれくらいの期間取り込むかを考慮した健康影響の可能性。

IARCの発がん性分類は主にハザードを評価するものであり、通常の生活で製品を使用した場合の発がん確率を直接示すものではありません。

つまり、酸化チタンが発がん性分類を受けているからといって、酸化チタンを含む製品すべてが同じ危険性を持つわけではないのです。

粒子径と結晶構造によって何が変わる?

酸化チタンには、主にアナターゼ型とルチル型という結晶構造があります。

加えて、粒子径によって一般的な顔料用酸化チタンとナノサイズの酸化チタンに区別されます。

粒子が小さくなると、同じ重量でも粒子数や表面積が増加します。そのため、細胞との接触や体内動態、試験結果に違いが生じる可能性があります。

ただし、ナノ粒子だから必ず有害という単純な関係ではありません。粒子の凝集状態、表面処理、形状、結晶構造、ばく露経路なども考慮する必要があります。

IARCのモノグラフでも、酸化チタンの物理的性質や粒子径の違いが詳しく検討されています。

【IARCグループ2Bの真相】酸化チタンは肺がんを引き起こすのか?

酸化チタン発がん性

酸化チタンの発がん性を理解するうえで、最も重要な国際的評価がIARCによるグループ2B分類です。

IARC(国際がん研究機関)は、世界保健機関(WHO)の専門機関で、さまざまな化学物質や環境要因について発がん性の証拠を評価しています。

IARCが酸化チタンをグループ2Bに分類した経緯

IARCは2006年、酸化チタンを「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」グループ2Bに分類しました。

この判断は、主に動物実験で得られた発がん性の証拠に基づいています。

IARCのモノグラフ第93巻では、次のように評価されています。

- ヒトにおける発がん性の証拠:不十分
- 実験動物における発がん性の証拠:十分
- 総合評価:グループ2B

ここで誤解してはいけないのが、ヒトにおける発がん性が確認されたという意味ではないことです。

動物実験では、酸化チタンを高濃度で長期間吸入させたラットに肺腫瘍が確認されています。一方、ヒトの疫学研究では、酸化チタンへのばく露と肺がんの因果関係を確定できるだけの証拠は得られていません。

グループ2Bはどの程度危険なのか?

IARCの分類は、発がん性の証拠の強さを整理するものです。

分類 意味 代表例
グループ1 ヒトに対して発がん性がある アスベスト、たばこ
グループ2A ヒトに対しておそらく発がん性がある 赤肉(加工肉とは別の分類)
グループ2B ヒトに対して発がん性がある可能性がある 酸化チタン
グループ3 ヒトに対する発がん性を分類できない 発がん性の証拠が不十分な物質など

グループ2Bは、発がん性が証明されたという意味ではありません。

また、グループ1よりグループ2Bの物質を摂取した方が安全、あるいは危険というように、分類番号だけで実際の健康リスクを比較することもできません。

なぜ吸入による肺への影響が問題になるのか

酸化チタンの吸入リスクで注目されるのが、肺に蓄積した粒子による慢性的な炎症です。

微細な粉じんを大量に吸い込むと、肺胞に到達した粒子を排出する機能が追いつかなくなる可能性があります。

この状態は「肺の過負荷(Lung Overload)」と呼ばれます。

動物実験では、肺の過負荷に伴う慢性炎症や組織の変化、肺腫瘍との関連が検討されています。

ただし、こうした高濃度ばく露の実験結果を、そのまま一般消費者の日常的な接触に当てはめることはできません。

特に注意が必要なのは、次のような作業です。

- 酸化チタンの粉末を大量に取り扱う製造工程
- 粉末顔料を計量・混合する作業
- 乾燥した粉末を移し替える作業
- 酸化チタンを含む粉体を飛散させる作業

こうした環境では、粉じんの飛散防止、局所排気設備、適切な呼吸用保護具などによって吸入ばく露を抑えることが基本です。

IARCグループ2Bの本質は、酸化チタンを含む製品に触れることすべてが危険という話ではなく、特に吸入によるばく露条件を無視できないという点にあります。

【食品添加物E171の安全性】EFSAと日本の評価はなぜ違う?

酸化チタンの安全性をめぐって国際的な議論が大きくなったきっかけの一つが、食品添加物E171の再評価です。

E171は、二酸化チタンを食品の白色着色料として使用する際のEUでの添加物番号です。

食品の見た目を白くしたり、色を均一にしたりする目的で利用されてきました。

しかし、2021年のEFSAによる評価で、食品から摂取する二酸化チタン粒子の遺伝毒性に懸念が示されました。

EFSAは2021年に何を問題視したのか

欧州食品安全機関(EFSA)は、2021年5月6日に食品添加物E171の安全性に関する再評価結果を公表しました。

評価の中心となったのは、二酸化チタン粒子が遺伝物質に影響を及ぼす可能性です。

EFSAは、関連する研究を検討した結果、次のような問題を指摘しました。

1. 酸化チタン粒子がDNA鎖の切断を引き起こす可能性がある。
2. 染色体損傷につながる可能性がある。
3. 遺伝毒性への懸念を完全には排除できない。
4. 安全な摂取量を設定するための十分な根拠が得られない。

そのため、EFSAはE171を食品添加物として安全とみなすことはできないと結論付けました。

特に重要なのは、これは食品添加物としての評価であり、日焼け止めや塗料など、酸化チタンのすべての用途に対する評価ではないという点です。

また、EFSAは酸化チタンがヒトに対する発がん性を証明された物質だと結論付けたわけではありません。

あくまで遺伝毒性に関する懸念を排除できず、食品添加物として安全性を確認できないという判断です。

日本の食品安全委員会と厚生労働省はどう判断した?

日本では、EUの規制変更を受けて、酸化チタンの安全性について追加の調査・検討が進められました。

2023年9月7日、食品安全委員会の第193回添加物専門調査会で、厚生労働省から二酸化チタンへの対応について報告が行われています。

この報告では、国立医薬品食品衛生研究所の専門家による調査や、ナノサイズの酸化チタンを用いた動物試験の結果が示されました。

特に注目されたのが、一次粒径6nmのアナターゼ型酸化チタンを使用したラットの90日間反復経口投与試験です。

試験では、雌雄ともに1,000mg/kg体重/日まで、体重や臓器重量、血液学的検査などに投与に関連する変化が確認されませんでした。

また、肝細胞の小核形成の増加や、DNA二重鎖切断の指標であるγ-H2AX陽性細胞の増加も確認されませんでした。

この試験結果は、食品から摂取した酸化チタンがどの程度吸収されるか、遺伝毒性が生じる可能性があるかを考えるうえで重要な資料となっています。

加えて、2023年11月30日の食品安全委員会添加物専門調査会でも、二酸化チタンについて専門家による議論が行われました。

ここで注意したいのは、2023年の動きが食品安全委員会による独立した最終的な食品健康影響評価の公表と同じではないことです。実際には、厚生労働省が調査結果を提出し、専門調査会で検討が続けられたという経緯があります。

厚生労働省側の評価では、EFSAの結論をそのまま支持することは困難であり、ヒトの健康への安全性上の懸念を示す決定的な証拠は提示されていないと整理されました。

そのため、直ちに使用を差し控える必要はないという判断が示されています。

WHO・FAOのJECFAは2023年に異なる評価を示した

日本の評価と合わせて注目したいのが、WHOとFAOの合同食品添加物専門家会議であるJECFAの見解です。

JECFAは2023年11月24日、食品添加物としての二酸化チタンINS171について評価結果を公表しました。

主な判断は次のとおりです。

- 消化管からの吸収率が非常に低い。
- 遺伝毒性を示す説得力のある証拠は得られていない。
- 長期動物試験で発がん性を示す証拠は確認されていない。
- 1969年に設定されたADI「特定する必要なし」という評価を維持した。

ADIとは、一日許容摂取量のことです。

「特定する必要なし」は、通常の使用条件下で健康上の懸念が認められないと評価される場合に用いられる表現であり、無制限に摂取してよいという意味ではありません。

JECFAは、ナノ粒子に適した遺伝毒性試験方法が十分に確立されていないことも課題として挙げています。

つまり、EFSAとJECFAの違いは、単に安全か危険かという意見の相違ではなく、試験結果の信頼性、粒子の性状、食品からの吸収率、遺伝毒性の評価方法などをどう判断するかにあります。

【日本・EU・国際機関の評価を比較】2026年までの重要な出来事

酸化チタンの安全性をめぐる議論は、2006年のIARC分類から、2021年のEFSA評価、2022年のEU食品添加物禁止、2023年の日本とJECFAの検討、そして2025年のEU司法判断へと展開してきました。

各機関の判断を時系列で整理すると、評価の違いが分かりやすくなります。

酸化チタンの発がん性・安全性をめぐる年表
時期 機関・出来事 主な判断・内容 2006年 IARC 酸化チタンをグループ2Bに分類。動物実験の証拠を重視。 2021年5月 EFSA E171の遺伝毒性への懸念を排除できず、食品添加物として安全とみなせないと判断。 2022年2月 EU欧州委員会 食品添加物E171の食品への使用許可を撤回。 2023年9月 厚生労働省・食品安全委員会 日本の調査結果を添加物専門調査会に報告。経口投与試験などを検討。 2023年11月 JECFA・食品安全委員会 JECFAが食品添加物としての安全性を再評価。日本の専門調査会でも議論。 2025年8月1日 EU司法裁判所 特定の粉末状酸化チタンの発がん性分類取り消しを維持。 2025年12月10日 EU官報 特定の粉末状酸化チタンが吸入によるCLP調和分類の対象外であることを告知。 2026年11月 日本・EU 日本では食品添加物として使用可能。EUでは食品添加物E171の禁止が継続。

日本では食品添加物として使用できる?

日本では二酸化チタンは指定添加物として認められています。

2025年5月26日最終更新の第10版食品添加物公定書にも、指定添加物として二酸化チタンが掲載されています。

ただし、無条件であらゆる食品に使用できるわけではありません。

厚生労働省が定めた使用基準では、着色目的に限られており、使用が禁止されている食品もあります。

例えば、次の食品には使用できません。

- カステラ
- きなこ
- しょう油
- みそ
- 食肉および食肉漬物
- 魚肉漬物
- スポンジケーキ
- 茶
- のり類
- めん類
- 野菜
- マーマレード

したがって、日本で酸化チタンが食品添加物として認められているという事実と、どの食品にも自由に使用できるという理解は区別する必要があります。

EUではなぜ食品への使用が禁止されたのか

EUでは、2022年1月14日に欧州委員会規則2022/63が採択されました。

この規則によって食品添加物E171の食品への使用許可が撤回され、2022年2月7日に規則が発効しました。

背景には、EFSAが示した遺伝毒性への懸念があります。

ただし、禁止の理由は、酸化チタンが食品から摂取されると必ず発がんすることが証明されたからではありません。

食品添加物としての安全性を十分に確認できなかったことが、規制変更の中心的な理由です。

EUでは移行期間も設けられ、2022年8月7日まで従来の規則に従って製造された食品を市場に出すことが認められていました。

なお、医薬品については食品とは別の扱いがあり、E171は医薬品の着色用途として引き続き認められています。

【2025年EU司法判断の重要性】酸化チタンの発がん性分類はどう変わった?

2025年8月1日、EU司法裁判所は酸化チタンの発がん性分類をめぐる訴訟について重要な判決を出しました。

この判断は、2026年現在の酸化チタンの規制状況を理解するうえで欠かせません。

争点となったのは粉末状酸化チタンの吸入リスク

EUでは、2019年に欧州委員会が酸化チタンの粉末について、一定の条件を満たすものを吸入による発がん性カテゴリー2に分類する規則を採択しました。

対象となったのは、具体的には次の条件を満たす粉末状の酸化チタンです。

- 粉末状であること
- 粒子の1%以上が空気力学的直径10μm以下であること

この分類に対して、酸化チタンの製造企業などが科学的評価の妥当性を争いました。

2022年11月23日、EU一般裁判所は対象となった分類・表示を取り消しました。

その後、フランスと欧州委員会が上訴しましたが、2025年8月1日、EU司法裁判所は上訴を退け、取り消しを維持しました。

裁判所が重視したのは、分類の根拠となった科学的研究の信頼性や評価方法に関する問題です。

特に、粒子の肺への過負荷を計算する際の評価方法などについて、科学的証拠を適切に検討したかが争点になりました。

2025年の判決で酸化チタンは安全になったのか?

ここは大きな誤解が生じやすい部分です。

2025年の判決は、酸化チタン全般について発がん性がないと認定したものではありません。

取り消しが維持されたのは、特定の粉末状酸化チタンに適用されていたEUの調和分類です。

2025年12月10日には、EU官報でもこの法的な結果が告知されました。

対象となる粉末状酸化チタンについて、吸入による発がん性カテゴリー2の調和分類が適用されないことが明確にされています。

一方、IARCのグループ2B分類が消えたわけではありません。IARCの評価とEUのCLP分類は、目的や評価制度が異なるためです。

加えて、食品添加物E171の禁止も別の規則に基づいているため、2025年の司法判断によって解除されたわけではありません。

つまり、次の3つは別々に考える必要があります。

1. IARCによる発がん性の科学的評価
2. EUのCLP規則による化学物質の分類・表示
3. EUの食品添加物規則によるE171の使用許可

この区別を理解することが、2025年の判決を正しく読むためのポイントです。

【日焼け止め・化粧品は大丈夫?】皮膚への塗布と吸入を区別する

酸化チタンを含む製品で、一般消費者が特に気になるのが日焼け止めや化粧品です。

酸化チタンは紫外線を散乱させる性質があり、紫外線防御成分として利用されています。

特に、紫外線散乱剤として使用される酸化チタンは、紫外線を物理的に反射・散乱させる目的で配合されています。

ここでも重要なのは、皮膚に塗る場合と、粉末やエアゾールとして吸い込む場合では、ばく露経路が異なることです。

日焼け止めに含まれる酸化チタンの発がん性

酸化チタンを配合した日焼け止めについて、吸入リスクをそのまま皮膚への塗布に当てはめることは適切ではありません。

EUの消費者安全科学委員会(SCCS)は、ナノサイズの酸化チタンを紫外線フィルターとして使用することについて、皮膚に塗布する用途と、肺への吸入が起こり得る用途を区別して評価してきました。

2013年の評価では、ナノ酸化チタンを日焼け止めの紫外線フィルターとして濃度25%まで使用することについて、ヒトへの悪影響を引き起こすリスクはないと判断されました。

一方、粉末やスプレーなど、肺に吸い込む可能性のある用途については安全性を確認できないとされました。

つまり、日焼け止めに配合されているという理由だけで、発がん性があると判断することはできません。

特に注意したいのはスプレーや粉末タイプ

2020年に公表されたSCCSの評価では、酸化チタンを含むヘアスタイリング用エアゾールについて、25%濃度での使用は一般消費者や美容師にとって安全ではないとされました。

また、顔用のルースパウダーについては、評価対象となった条件下で一般消費者による使用が安全と判断されています。

このように、同じ酸化チタンでも製品形態によって結論が異なります。

日常生活での判断基準は次のとおりです。

製品・使用方法 主な注意点
クリームタイプの日焼け止め 皮膚への塗布と吸入を区別して考える
乳液タイプの日焼け止め 通常の皮膚使用と粉じん吸入は別の評価
スプレータイプ 吸い込まないように使用する
フェイスパウダー 粉末を舞い上げないように注意する
工業用酸化チタン粉末 粉じんの飛散防止と呼吸用保護具が重要

特に子どもが使用するスプレー製品や、室内で粉末化粧品を使用する場合は、吸入を避ける使い方を意識することが大切です。

日焼け止めは紫外線による皮膚障害を防ぐためにも重要な製品です。酸化チタンの発がん性分類だけを理由に、紫外線対策そのものを避ける必要はありません。

【プロの結論】酸化チタンの発がん性を判断する5つの基準

酸化チタンの発がん性をめぐる議論は、IARC、EFSA、JECFA、日本の行政機関、EU司法裁判所で、それぞれ異なる目的と評価方法に基づいて進められてきました。

2026年11月現在、読者が理解しておきたい要点は次の5つです。

1.IARCのグループ2Bは発がん性の確定を意味しない

酸化チタンは動物実験で発がん性の証拠が認められていますが、ヒトにおける証拠は不十分です。特に吸入によるばく露が重要な論点です。

2.食品からの摂取は吸入とは別に評価する

食品添加物E171の安全性について、EFSAは遺伝毒性への懸念を排除できないと判断しました。一方、JECFAや日本の検討では、食品グレードの粒子の吸収率や試験材料の違いなどが重視されています。

3.日本とEUでは食品添加物の規制が異なる

日本では二酸化チタンは指定添加物として認められ、使用基準の範囲内で利用できます。EUでは食品添加物E171としての使用許可が撤回されています。

4.2025年のEU司法判断は食品添加物禁止の撤回ではない

対象となったのは、特定の粉末状酸化チタンに対する吸入発がん性の調和分類です。食品添加物E171の規制とは別の問題です。

5.日常生活では吸入を避ける使い方が合理的

特に粉末を大量に扱う作業や、スプレー製品の使用では、吸入ばく露を減らすことが大切です。

酸化チタンの情報を見極める判断基準

インターネット上では、「発がん性物質に指定された」「EUで禁止された」「裁判で安全性が認められた」といった見出しが並ぶことがあります。

しかし、これらの表現だけでは科学的な意味を正確に理解できません。

情報を読むときは、次の点を確認してください。

- どの機関が評価したのか
- 食品、吸入、皮膚のどの経路を対象にしているのか
- 対象となった粒子径や製品形態は何か
- 動物実験なのか、ヒトの疫学研究なのか
- 科学的な評価なのか、法律上の規制なのか

この5点を確認するだけでも、酸化チタンに関する誤解を大幅に減らせます。

【酸化チタンの発がん性】に関するよくある質問(FAQ)

Q1:酸化チタンは発がん性物質なのですか?

酸化チタンはIARCによってグループ2Bに分類されています。これはヒトに対して発がん性がある可能性を示す分類です。動物実験では発がん性の証拠がありますが、ヒトでの証拠は不十分です。特に粉じんの吸入によるリスクが問題となっています。

Q2:二酸化チタンを食品から摂取すると肺がんになりますか?

食品から摂取した二酸化チタンが肺がんを引き起こすと証明されたわけではありません。IARCの評価で中心となったのは吸入ばく露です。一方、EFSAは食品添加物E171の遺伝毒性への懸念を排除できないと判断しており、食品からの摂取についても安全性をめぐる議論があります。

Q3:日本では酸化チタン入りの食品を食べても大丈夫ですか?

日本では二酸化チタンは指定添加物として認められており、定められた使用基準の範囲で使用できます。2023年の厚生労働省の調査では、直ちに使用を差し控える必要はないと判断されました。ただし、海外の評価は一致しておらず、新しい科学的知見の継続的な確認が必要です。

Q4:EUで酸化チタンが禁止されたのはなぜですか?

2021年にEFSAが食品添加物E171について遺伝毒性の懸念を排除できないと判断したためです。これを受けて、EUは2022年2月に食品への使用許可を撤回しました。これは食品添加物としての規制であり、酸化チタンを含むすべての製品が禁止されたわけではありません。

Q5:2025年のEU司法裁判所の判決で酸化チタンは安全になったのですか?

いいえ。判決は特定の粉末状酸化チタンに対する吸入発がん性の調和分類の取り消しを維持したものです。IARCのグループ2B分類やEUの食品添加物E171禁止を取り消したものではありません。

Q6:酸化チタン入りの日焼け止めは使用しない方がよいですか?

皮膚に塗るタイプと、粉末やスプレーとして吸い込む可能性があるタイプは区別する必要があります。日焼け止めの皮膚使用については、EUの専門委員会が一定の条件下で安全性を評価しています。吸入を避けるためには、クリームや乳液などの形態を選ぶことも一つの方法です。

酸化チタンの発がん性を考える際、最も重要なのは、ばく露経路によって科学的評価が異なるという事実です。

IARCのグループ2B分類は、主に吸入による発がん性の証拠を踏まえたものです。一方、食品添加物E171については、EFSAが2021年に遺伝毒性への懸念を示し、EUが2022年に食品への使用を禁止しました。

これに対して、日本の2023年の調査やJECFAの2023年評価では、食品グレードの酸化チタンの吸収率や遺伝毒性試験の信頼性などを考慮し、EFSAとは異なる判断が示されています。

さらに2025年8月のEU司法裁判所の判決では、特定の粉末状酸化チタンに対する発がん性分類の取り消しが維持されました。ただし、食品添加物E171の禁止とは別の規制問題です。

2026年時点での判断基準は、酸化チタンという物質名だけで危険性を決めつけず、粒子の性質、製品の形態、摂取・吸入・塗布という経路を確認することです。

今後もナノ粒子の遺伝毒性や長期ばく露に関する研究、各国の規制見直しが続く可能性があります。特に食品添加物の安全性評価と職業上の吸入ばく露対策は、引き続き注目すべきテーマです。

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杉本 彩
コンテンツディレクター 杉本 彩
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