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【代表的な暴力団事件】発生経緯・警察の捜査・裁判の判決を検証

星野 匠 星野 匠 • 更新: • 公開: • 読了約 15 分
目次

暴力団事件を理解するには、事件が起きたという事実だけでなく、誰が起訴され、裁判所がどのような証拠を評価し、どのような判断を下したのかを追う必要がある。

山口組分裂後の抗争では、実際に有罪判決が出た事件と、捜査・起訴されたものの無罪が確定した事件がある。

事件1:2019年4月・神戸市春日野道商店街の組長刺傷事件

実刑判決

2019年4月18日未明、神戸市中央区の春日野道商店街で、神戸山口組系組長が刃物で刺されて重傷を負う事件が発生した。

被害者は当時67歳の組長で、事件には対立関係にあった六代目山口組系組員の男2人が関与したとして逮捕された。

警察の捜査を経て、2人は殺人未遂などの罪に問われた。

2021年7月19日、神戸地方裁判所は実行役とされた男に懲役11年、もう1人に懲役9年の実刑判決を言い渡した。

判決では、2人が共謀して被害者を殺害しようとしたと認定。事件の背景についても、個人的なトラブルではなく、組織間の対立抗争によるものと判断した。

2人は判決を不服として大阪高裁に控訴したことが同年8月に報じられている。

この事件が示したのは、暴力団の内部対立が組織関係者だけの問題にとどまらず、一般市民が利用する商店街という生活空間にも危険を及ぼすという現実だ。

事件2:2019年8月・神戸市の山口組系組員銃撃事件

2026年5月・無罪確定

2019年8月21日、神戸市中央区で、六代目山口組系組員が銃撃され重傷を負う事件が起きた。

事件は山口組系の拠点施設前で発生し、対立関係にあった神戸山口組の中核団体・山健組の中田浩司組長が、殺人未遂と銃刀法違反などの罪で起訴された。

裁判の中心的な争点は、防犯カメラに映った人物が被告本人だったと証明できるかどうかだった。

検察側は映像や被告の行動に関する証拠を総合的に評価すれば犯人と推認できると主張。一方、弁護側は映像が不鮮明であり、人物を特定するには証拠が不十分だと反論した。

2024年10月31日、神戸地裁の裁判員裁判は、被告を犯人と断定するには合理的な疑いが残るとして無罪を言い渡した。検察側は懲役20年を求刑していた。

その後、検察側が控訴したものの、2026年5月12日の大阪高裁判決も一審の無罪判断を支持。さらに検察側が上告期限までに上告しなかったため、2026年5月27日に無罪が確定した。

この裁判で重要なのは、事件が発生したことと、起訴された人物の有罪が証明されたことは別問題だという点である。

組織間の対立という背景が明らかでも、特定の被告人が実行犯であると証明できなければ有罪にはできない。重大事件であっても、刑事裁判では証拠に基づく判断が優先される。

2つの事件から見える捜査・裁判の違い
比較項目 2019年4月の刺傷事件 2019年8月の銃撃事件
発生場所 神戸市中央区の商店街 神戸市中央区
被害 組長が重傷 組員が重傷
起訴された罪 殺人未遂など 殺人未遂・銃刀法違反など
主な争点 共謀と殺意 防犯カメラ映像による犯人特定
裁判所の判断 神戸地裁で実刑判決 一審・二審とも無罪
確認できる最終状況 一審判決後に控訴 2026年5月に無罪確定

両事件は同じ分裂抗争の時期に発生したものだが、裁判結果は異なった。事件の背景や社会的な注目度だけで有罪・無罪が決まるわけではないことが分かる。

【暴力団犯罪の実態】抗争だけではない資金獲得活動と組織の変化

暴力団事件簿

暴力団事件という言葉から、銃撃や襲撃などの抗争事件を思い浮かべる人は多い。しかし、警察庁の検挙統計を見ると、暴力団犯罪の実態はより広い。

組織を維持するには資金が必要になる。そのため、暴力を直接使う事件だけでなく、薬物犯罪、詐欺、窃盗、恐喝などが継続的な取締りの対象になっている。

暴力団の主な資金獲得犯罪

警察庁の警察白書では、暴力団の資金獲得活動として、次のような犯罪・不当行為が挙げられている。

- 薬物犯罪:覚醒剤などの密売や薬物関連の違法取引。
- みかじめ料の徴収:飲食店や事業者に対して、組織の威力を背景に金銭を要求する行為。
- 恐喝・強要:企業や個人に対する不当な金銭要求。
- 詐欺:特殊詐欺や各種制度を悪用した資金獲得。
- 窃盗:財産を不法に取得する犯罪。
- 企業・行政対象暴力:企業活動や行政機関に対する不当な要求や業務妨害。

特に警察庁は、暴力団構成員等が主導的な立場で特殊詐欺に関与し、組織の資金源としている実態にも注意を向けている。

暴力団と匿名・流動型犯罪グループの関係

2026年公表の組織犯罪情勢で重要なテーマとなっているのが、匿名・流動型犯罪グループとの関係だ。

いわゆるトクリュウは、SNSや求人サイトなどを通じてメンバーが緩やかにつながり、犯罪ごとに実行役を入れ替える特徴を持つ。

従来型の暴力団が組長を頂点とする階層的な組織構造を持つのに対し、匿名・流動型犯罪グループでは、中核部分の人物や収益の流れが見えにくい。

警察庁は、暴力団構成員がこうした犯罪グループの首領となる事例や、グループから暴力団に資金が流れる事例を確認している。また、暴力団がグループを実質的に傘下に収めて資金獲得活動に利用している可能性も指摘している。

つまり、暴力団構成員の減少だけで組織犯罪全体がなくなったと判断することはできない。組織の外側にいる人物や別の犯罪集団との資金・人的なつながりまで調べる必要がある。

【暴力団対策法と暴力団排除条例】事件を防ぐための仕組みとは

暴力団犯罪への対策は、事件発生後に逮捕・起訴する刑事手続だけではない。

日本では、暴力団の不当要求を抑止し、資金源を遮断し、地域社会から組織を排除するための法制度が整備されている。

暴力団対策法の仕組み

正式名称は「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」。1992年3月に施行された。

この法律の特徴は、指定暴力団の構成員による一定の不当要求行為などに対し、都道府県公安委員会が行政上の措置を講じられることだ。

主な仕組みは次のとおり。

1. 中止命令

暴力団員が組織の威力を示して不当な金銭要求などを行った場合、公安委員会がその行為をやめるよう命令できる。

2. 再発防止命令

違法な要求行為が繰り返されるおそれがある場合、再発を防ぐための命令を出せる。

3. 事務所使用制限命令

対立抗争が発生し、事務所が抗争に利用されて住民の平穏が脅かされる場合、一定期間の事務所使用を制限できる。

4. 特定抗争指定暴力団等の指定

生命や身体に重大な危害を及ぼす抗争が発生し、同様の行為が続くおそれがある場合、公安委員会は対象団体を特定抗争指定暴力団等に指定できる。

指定された団体には警戒区域が設定され、事務所の新設や使用、構成員の集合などに厳しい制限が課される。

暴力団排除条例は何を禁止しているのか

暴力団排除条例は、都道府県ごとに制定されている制度で、自治体、住民、事業者が連携して暴力団の活動を社会から排除することを目的としている。

主な内容は次のとおり。

- 暴力団の威力を利用する目的で金銭や財産上の利益を与える行為の禁止
- 暴力団の活動や運営を助長する利益供与の規制
- 事業者と暴力団との取引関係の排除
- 不動産の賃貸借契約などへの暴力団排除条項の導入
- 青少年を暴力団の悪影響から守るための施策

例えば東京都の暴力団排除条例では、暴力団の威力を利用する対価として事業者が利益を供与する行為などが規制されている。

暴力団排除条例の重要な役割は、暴力団が一般企業や店舗との関係を通じて資金や活動基盤を維持することを難しくする点にある。

警察による摘発だけでなく、企業の契約管理、不動産取引、金融機関の対応なども暴力団排除の一部を担っている。

2026年11月現在の六代目山口組をめぐる指定状況

ここは2026年の重要な更新点だ。

警察庁が2026年4月に公表した資料では、六代目山口組と神戸山口組、池田組、絆會の3つの対立関係について、特定抗争指定の期限が延長されたと説明されていた。

しかし、その後の2026年8~10月に状況が変化している。

2026年の主な動き

- 9月8日:六代目山口組と池田組との特定抗争指定が解除。
- 9月21日:六代目山口組と絆會との特定抗争指定が終了。
- 10月5日:六代目山口組と神戸山口組の特定抗争指定について、27回目の延長が官報で公示。
- 2027年1月6日まで:六代目山口組と神戸山口組の指定が継続。

神戸新聞などの報道によると、池田組との指定解除は、両組織間で抗争とみられる事件が約2年間発生していなかったことなどを踏まえた判断だった。絆會との指定についても、一定期間事件が発生していないことなどから延長されなかった。

一方、六代目山口組と神戸山口組については、対立抗争が終結したとは認められないとして指定が延長された。

2026年11月5日時点

この動きは、山口組分裂後の対立関係に変化が生じていることを示す。ただし、特定抗争指定の解除は、暴力団の解散や両組織の完全な和解を意味しない。行政上の指定が終了した後も、警察による情報収集や警戒、取締りは続く。

【プロの結論】暴力団事件簿から読み解く組織犯罪の現在地

2026年の暴力団情勢を理解するうえで、押さえておきたい要点は3つある。

1. 構成員の減少と犯罪リスクの低下は同じではない

暴力団構成員等が1万7,600人まで減少したことは、長期的な取締りや暴力団排除活動の成果を示す重要な数字だ。

しかし、組織犯罪は構成員数だけで評価できない。準構成員や周辺者、匿名・流動型犯罪グループとの関係など、統計上の人数だけでは見えにくい部分もある。

2. 抗争事件の減少と組織間対立の終結は別問題

2025年の対立抗争に起因するとみられる事件は1件だった。さらに2026年には池田組、絆會との特定抗争指定が終了した。

一方、神戸山口組との指定は継続している。

したがって、事件の発生件数、公安委員会の指定状況、組織の実態は分けて判断する必要がある。

3. 事件の情報は逮捕・起訴・判決を区別して読む

暴力団事件に関する報道では、逮捕された段階で犯人と断定するような表現が使われることもある。

しかし、刑事手続には明確な段階がある。

- 逮捕:犯罪の疑いに基づく身柄拘束。
- 送検:事件を検察官に送致する手続。
- 起訴:検察官が裁判を求める手続。
- 有罪判決:裁判所が犯罪事実を認定した判断。
- 無罪確定:有罪とする判断が確定していない状態。

2019年の神戸市銃撃事件で、2026年に無罪が確定したことは、この違いを理解するうえで重要な事例だ。

事件の重大性と個人の刑事責任は、証拠に基づいて別々に評価されなければならない。

【暴力団事件簿】に関するよくある質問(FAQ)

Q1:2026年最新の暴力団構成員数は何人ですか?

令和7年末現在で1万7,600人です。内訳は暴力団構成員9,400人、準構成員等8,200人で、過去最少となりました。警察庁が2026年4月に公表した確定値です。

Q2:暴力団の検挙人員7,335人は全員が正式な組員ですか?

いいえ。正式な構成員は1,474人で、残りの5,861人は準構成員その他の周辺者です。合計7,335人という数字には、正式な組員以外も含まれています。

Q3:六代目山口組と神戸山口組の抗争は2026年に終結しましたか?

2026年11月5日時点で、特定抗争指定は継続しています。2026年10月5日に指定期限の延長が公示され、2027年1月6日までとなりました。

Q4:池田組や絆會との抗争指定も続いていますか?

2026年9月に、六代目山口組と池田組、六代目山口組と絆會の特定抗争指定はそれぞれ終了しました。ただし、これは両組織の解散や完全な和解を意味するものではありません。

Q5:暴力団対策法と暴力団排除条例の違いは何ですか?

暴力団対策法は、指定暴力団員の不当要求や対立抗争などに対して、公安委員会が中止命令や特定抗争指定などを行う法律です。一方、暴力団排除条例は、自治体や事業者、住民が連携し、利益供与や不適切な取引関係を排除するための地域ごとの条例です。

2026年の暴力団情勢は、構成員等の減少と組織犯罪の形態変化という2つの側面から見る必要がある。

警察庁の2026年公表資料では、令和7年末の構成員等は1万7,600人、検挙人員は7,335人となり、いずれも過去最少を記録した。一方、薬物犯罪、傷害、詐欺、窃盗などの検挙は続いており、匿名・流動型犯罪グループとの関係も警察の重要な調査対象となっている。

歴代の代表的な暴力団事件を振り返ると、2015年の六代目山口組分裂、神戸山口組や絆會、池田組の結成・離脱、2019年の神戸市における抗争関連事件などが、現在の組織犯罪情勢を形づくる重要な出来事だった。

2026年には池田組と絆會との特定抗争指定が終了した一方、神戸山口組との指定は継続している。今後は、抗争事件の再発防止に加え、資金源の遮断、暴力団からの離脱支援、匿名・流動型犯罪グループとの関係解明が重要な課題となる。

暴力団事件簿を読み解く際に最も大切なのは、事件の発生、組織の対立、警察の捜査、裁判の結論、そして社会全体の対策を切り分けて理解することだ。 個別事件の背景と公的統計を照らし合わせることで、日本の組織犯罪がどのように変化しているのかを、より正確に把握できる。

主な参考資料:警察庁「令和7年における組織犯罪の情勢(2026年4月・確定値版)」、警察庁「令和7年版警察白書」、全国暴力追放運動推進センターの暴力団情勢資料、神戸新聞・共同通信・サンテレビの事件報道。

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コンテンツディレクター 星野 匠
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