関西風と関東風を見分ける最も簡単な方法は、鍋に入れた牛肉へ、どのタイミングで味を付けるかを見ることだ。
関西風は、牛脂を溶かした鍋で牛肉を焼き、砂糖や醤油を直接加える。関東風は、あらかじめ合わせておいた割り下を鍋に入れ、肉や野菜を順番に煮ていく。
公益財団法人日本食肉消費総合センターも、両者の違いを割り下の有無と調味の順序で説明している。同センターのレシピでは、関東風は割り下を煮立ててから肉を入れ、関西風は肉を焼いて砂糖と醤油を直接加える方法が紹介されている。
関西風と関東風の基本的な違い- 関西風: 肉を先に焼く。砂糖と醤油を直接加え、肉本来の味と焼き香ばしさを楽しむ。
- 関東風: 割り下を先に用意する。肉や野菜を甘辛い調味液で煮て、鍋全体の味を整える。
ただし、関東風でも牛脂を使って肉を軽く焼いてから割り下を加える方法がある。関西風でも肉を焼いた後は野菜から出る水分を利用して煮るため、完全に焼き料理と煮込み料理に分かれるわけではない。
両者は、調理法の違いを表す代表的な呼び方であり、家庭ごとのアレンジも多い。実際には、焼く工程と煮る工程を組み合わせた中間的な作り方も存在する。
【関西風すき焼きの作り方】牛肉を焼くタイミングが決め手
関西風すき焼きの魅力は、最初に焼いた牛肉を、調味料とともにできたての状態で味わえることだ。
割り下をあらかじめ作らないため、肉を焼く段階では砂糖や醤油の量を調整しやすい。肉の脂と調味料が鍋の中で合わさり、香ばしさと甘辛さが生まれる。
関西風の材料(2〜3人分)| 材料 | 目安 |
|---|---|
| 牛すき焼き用肉 | 400〜500g |
| 長ねぎ | 2本 |
| 焼き豆腐 | 1丁 |
| しらたき | 1袋 |
| しいたけ | 4〜6枚 |
| 春菊 | 1束 |
| 牛脂 | 適量 |
| 砂糖 | 適量 |
| 醤油 | 適量 |
| 酒 | 適量 |
砂糖・醤油・酒の量は、肉の種類や野菜の水分量、好みの甘さに合わせて調節する。関西風には、最初から全調味料を混ぜた固定の割り下が必須というわけではない。
関西風の基本的な手順1.鍋を熱して牛脂をなじませる
すき焼き鍋を十分に温め、牛脂を鍋全体に広げる。牛脂を使うことで、牛肉の風味を生かしながら焼き始められる。
牛脂がなければ、少量の植物油で代用できる。
2.牛肉を広げて焼く
牛肉を重ねずに鍋へ広げ、表面を焼く。肉を一度に大量に入れると鍋の温度が下がりやすいため、数枚ずつ調理すると扱いやすい。
3.砂糖と醤油で味付けする
肉の表面に砂糖を振り、醤油を加える。甘みと醤油の風味が肉に直接絡み、関西風らしい濃厚な味わいになる。
公益財団法人日本食肉消費総合センターのレシピでは、牛肉を焼いて砂糖を薄く振り、醤油大さじ2を加えて香ばしく仕上げる方法が掲載されている。焦げそうになった場合は酒を補う。
4.焼いた肉を先に味わう
肉が好みの焼き加減になったら、最初の一枚を取り分ける。関西風では、この焼きたての肉を先に楽しむ食べ方が特徴的だ。
5.野菜や豆腐を加える
長ねぎ、焼き豆腐、しいたけ、しらたきなどを加える。野菜から水分が出てきたら、醤油や砂糖、酒などを足して味を調整する。
関西風は鍋の状態に応じて味を整えるため、野菜の量が多い日や肉を追加したときにも柔軟に対応できる。
関西風をおいしく作る3つのポイント- 牛肉を一度に大量に入れず、少量ずつ焼く。
- 砂糖と醤油は一度に大量投入せず、味を見ながら加える。
- 肉を長時間煮続けず、好みの加熱具合で取り分ける。
特に注意したいのが牛肉の加熱時間だ。薄切り肉は火が通りやすく、煮続けると食感が硬くなりやすい。肉を焼く工程と野菜を煮る工程を分けることで、食材ごとのおいしさを引き出しやすくなる。
【関東風すき焼きの作り方】割り下の黄金比と味付けのコツ
関東風すき焼きは、醤油・砂糖・みりん・だしなどを合わせた割り下を使う。最初に味を決めておくため、肉や野菜を追加しても味付けを管理しやすい。
家族や友人など複数人で鍋を囲む場合にも便利で、料理に慣れていない人でも比較的安定した味に仕上げられる。
関東風の割り下の材料日本食肉消費総合センターが公開する4人分のすき焼きレシピでは、次の配合が紹介されている。
割り下の基本配合(4人分)
醤油1/4カップ
砂糖大さじ1
みりん大さじ4と1/2
昆布だし1/2カップ
出典:公益財団法人日本食肉消費総合センター「すきやき」4人分レシピ。
醤油は味の骨格、砂糖は甘み、みりんは甘みと風味、昆布だしはうま味と水分を補う役割を担う。
みりんを使うことで、砂糖だけでは出しにくいまろやかさも加わる。甘さを控えたい場合は砂糖を少し減らし、醤油やだしとのバランスを整えるとよい。
関東風の基本的な手順1.割り下を作る
醤油、砂糖、みりん、昆布だしを混ぜ合わせる。砂糖がなじむまで混ぜておけば、鍋に入れるときに味を調整しやすい。
2.鍋に牛脂をなじませる
熱したすき焼き鍋に牛脂を塗る。牛脂の香りを生かしながら、鍋に肉が付きにくい状態を作る。
3.割り下を入れて煮立てる
割り下を鍋に注ぎ、軽く煮立てる。煮汁が多すぎると味が薄くなるため、最初は鍋底を覆う程度から始めると調整しやすい。
4.牛肉と野菜を加える
牛肉を一枚ずつ広げて入れ、長ねぎ、焼き豆腐、しいたけ、しらたきなどを加える。肉は煮すぎず、火が通ったら取り分ける。
5.煮えた食材から食べる
野菜や豆腐に割り下の味が染み込んだら食べ頃だ。煮詰まってきた場合は、昆布だしなどを足して味を調整する。
日本食肉消費総合センターのレシピでも、肉は一枚ずつ広げてさっと煮ること、具材は煮えた順に食べることがポイントとして示されている。
割り下をおいしく仕上げるコツ関東風で失敗しやすいのは、最初から濃い割り下を大量に入れてしまうことだ。肉や野菜を加えると食材から水分が出るため、鍋の状態を見ながら味を調整する必要がある。
キッコーマンの2024年10月公開のレシピ解説でも、割り下に酒を加えると、うま味を補いながら味をまろやかにできると紹介されている。
【味付け・食感・調理法を比較】どっちが美味しい?
関西風と関東風は、優劣を競う料理ではない。牛肉をどのように楽しみたいか、鍋全体にどんな味を付けたいかによって好みが分かれる。
それぞれの特徴を整理すると、選び方が明確になる。
関西風・関東風の特徴比較表関西風では、牛肉を焼くことで肉の表面に香ばしさが生まれる。砂糖と醤油を直接加えるため、最初に食べる肉は調味料の味をダイレクトに感じやすい。
一方、関東風は割り下の中で肉を加熱する。醤油やみりん、だしが一体となった煮汁が肉や野菜に絡み、鍋全体の味をまとめる。
キッコーマンのレシピ解説では、醤油に含まれるアミノ酸と糖が加熱によって反応し、香ばしい香りを生むメイラード反応についても説明されている。肉を焼く関西風で感じられる香ばしさを考えるうえでも興味深いポイントだ。
すき焼きはどっちが美味しい?好みを判断するなら、次の基準がわかりやすい。
関西風がおすすめの人
- 牛肉そのものの味をしっかり楽しみたい。
- 焼いた肉の香ばしさが好き。
- 砂糖と醤油のシンプルな甘辛味が好み。
- 鍋の状態を見ながら味を調整するのが好き。
関東風がおすすめの人
- 甘辛い煮汁と肉、野菜を一緒に味わいたい。
- だしの風味がある味付けが好き。
- 家族全員で安定した味を楽しみたい。
- 調味料を事前に合わせて、手際よく調理したい。
特に初めてすき焼きを作る場合は、関東風から始めると味を整えやすい。一方、質のよい牛肉を少量ずつ焼いて味わいたいなら、関西風の魅力を感じやすい。
【なぜ関東と関西で違う?】すき焼きの歴史と牛鍋の関係
関西風と関東風の違いは、単なる家庭の好みから生まれたものではない。それぞれの地域で発展してきた牛肉料理の歴史が関係している。
関西では鋤焼、関東では牛鍋が広まった農林水産省の「うちの郷土料理」による東京都のすき焼き解説では、関西では江戸時代中期に、農具の鋤を鉄板のように使って貝や魚を焼く「魚すき」「沖すき」が存在したと説明されている。鋤で牛肉を焼く料理が、すき焼きの語源になったとされる。
一方、関東では明治時代に牛鍋が広まった。牛肉を醤油や味噌などで煮る料理で、文明開化による食文化の変化を象徴する存在だった。
農林水産省の解説によると、1859年の横浜開港以降、東京周辺でも牛肉を入手しやすい環境が整い、牛鍋を提供する店が次々と登場した。当初は肉の臭みを和らげる味噌仕立てが主流だったが、肉質の向上などに伴い、醤油・砂糖・酒を使う味付けへと変化していった。
関東大震災が呼び名の統一に影響大きな転換点となったのが、1923年(大正12年)の関東大震災だ。
農林水産省の解説では、震災によって東京の牛鍋店が大きな被害を受け、多くの店が閉店したこと、その後、関西で使われていた「すき焼き」という呼び名が関東にも広がり、名称が統一されていった経緯が紹介されている。
つまり、現在のすき焼きは、関西で発展した焼く調理法と、関東で広がった牛鍋文化が影響し合いながら定着した料理なのだ。
現在の専門店と家庭では作り方が異なる場合もある興味深いのは、現在の東京の老舗すき焼き店では、牛脂を鍋に溶かし、肉を炒めてから具材と調味料を加える関西風に近い調理法も主流になっていることだ。
一方、家庭では割り下を煮立てて肉と野菜を加える関東風が広く定着している。農林水産省の東京都の郷土料理解説も、この違いを紹介している。
これは、関東風と関西風が完全に分断された食文化ではないことを示している。店の調理法、家庭の習慣、料理人の考え方によって、両者の特徴が混ざり合っている。
【東海地方が境目?】キッコーマンの地域別調査から見える実態
関東風と関西風は、どの地域で切り替わるのだろうか。
この疑問を考えるうえで参考になるのが、キッコーマン株式会社が2024年10月24日に公表した「すき焼き」に関する調査だ。
同調査は2024年9月に実施されたオンラインアンケートで、対象はキッコーマン+(プラス)の会員、回答者数は1,158人。すき焼きを食べる頻度や調理方法、使用する肉、地域別の傾向などを調べている。
関東風と関西風の分布調査では、割り下を作る関東風の調理方法は、近畿・四国を除く地域で全国的に3割を超えた。一方、市販のすき焼きのたれを使う人は関東より東側に多く、関西風で作る人は近畿より西側に多い傾向が確認された。
キッコーマンは、この結果から東海地方が関東風と関西風の緩やかな境目になっていると分析している。
ここでいう東海地方は、調査上、岐阜県・静岡県・愛知県・三重県をまとめた地域区分だ。行政上の境界線のように、ある県を越えると調理法が完全に変わるという意味ではない。
年末年始だけではない、家庭のすき焼き事情同じ調査では、すき焼きを食べるタイミングについても興味深い結果が出ている。
- 年末年始の関連項目を選んだ回答:延べ約55%
- 週末に食べる: 約39%
- 平日に食べる: 約30%
複数回答方式のため、これらは合計して100%になる数字ではない。年末年始のごちそうとしてだけでなく、週末や平日にも食べられていることがわかる。
肉の種類にも地域差があるすき焼きといえば牛肉というイメージが強いが、調査では地域による違いも明らかになった。
全国的には牛肉が最も人気だったものの、北海道では約52%が豚肉を使うと回答。近畿・中国・九州では約15%が鶏肉を使うと回答した。
北陸や北関東でも豚肉がよく使われていると報告されている。すき焼きという料理名が同じでも、肉の種類や調理方法は地域によって幅がある。
調査結果を読むときの注意点キッコーマンの調査は、2024年9月に実施された会員向けオンラインアンケートである。全国民を対象とした無作為抽出調査や、2026年の最新の食生活統計とは異なる。
そのため、東海地方が境目という結果は、地域ごとの食習慣を考えるうえで有用な傾向ではあるが、各家庭の調理方法を一律に決めるものではない。
同じ愛知県内でも、関西風を好む家庭と関東風を好む家庭があって不思議ではない。出身地だけで作り方を判断するより、家庭で受け継がれてきた味付けに注目したほうが実態に近い。
【プロの結論】家庭で失敗しないすき焼きの選び方
関西風と関東風を比較すると、どちらを選ぶかは牛肉の楽しみ方と調理のしやすさで判断できる。
特に大切なのは、調理方法を先に決めてから肉や調味料を選ぶことだ。肉の脂身や厚さ、野菜の量によって、適した調理方法も変わる。
牛肉の部位によって使い分ける霜降りの多い牛肉は脂の甘みが強く、焼きたてを味わう関西風と相性がよい。最初の数枚を焼いて食べることで、肉の香りや脂の風味を楽しみやすい。
赤身と脂身のバランスが取れた肉は、関東風にも向いている。割り下の味を含ませながら、肉と野菜を一緒に楽しめるからだ。
ただし、これは絶対的なルールではない。霜降り肉を関東風にしても、赤身肉を関西風にしてもおいしく作れる。
人数や調理環境で選ぶ少人数で牛肉を中心に楽しみたい場合は関西風が候補になる。肉を少しずつ焼いて取り分けることで、焼きたての味を楽しめる。
一方、大人数で鍋を囲む場合は関東風が便利だ。割り下を事前に作っておけば、追加の肉や野菜にも同じ味付けを適用しやすい。
ただし、関西風でも調味料をあらかじめ手元に準備しておけば、大人数で十分に対応できる。
迷ったら両方を試す方法もある関西風と関東風のどちらが好みかわからない場合は、同じ牛肉を使って食べ比べるのがおすすめだ。
最初の数枚は関西風にして、牛肉と砂糖・醤油の組み合わせを楽しむ。その後、割り下を使って関東風に仕上げれば、同じ肉でも味の印象が変わることを実感できる。
この方法なら、牛肉の種類や産地を変えずに、調理法そのものが味に与える影響を比較できる。
【すき焼き関西・関東の違い】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:関西風と関東風の一番大きな違いは何ですか?
A1:最も大きな違いは味付けのタイミングです。関西風は牛肉を先に焼き、砂糖や醤油を直接加えます。関東風は醤油・砂糖・みりん・だしなどを合わせた割り下を使って煮ます。
Q2:関西風すき焼きに割り下は必要ですか?
A2:伝統的な関西風では、あらかじめ作った割り下は使いません。牛肉を焼いてから砂糖と醤油を直接加え、野菜を入れた後に酒などで水分や味を調整します。
Q3:関東風すき焼きの割り下は何対何で作ればよいですか?
A3:基本は醤油・砂糖・みりん・だしを合わせます。日本食肉消費総合センターの4人分レシピでは、醤油1/4カップ、砂糖大さじ1、みりん大さじ4と1/2、昆布だし1/2カップを使用しています。
Q4:関西風と関東風はどちらが甘いですか?
A4:一概には決まりません。関西風は砂糖を直接加えるため甘さが際立ちやすく、関東風はみりんや砂糖、だしの組み合わせでまろやかな甘辛さを作ります。実際の甘さは家庭ごとの配合によって変わります。
Q5:関東風と関西風の境目はどこですか?
A5:キッコーマンの2024年調査では、東海地方が緩やかな境目とされています。ただし、明確な県境があるわけではなく、家庭や地域によって調理方法は異なります。
Q6:関東風でも最初に牛肉を焼いてよいですか?
A6:問題ありません。牛脂で肉を軽く焼いてから割り下を加える作り方もあります。関東風の特徴は割り下で味付けすることであり、肉を一切焼かないことではありません。
Q7:すき焼きの肉を柔らかく仕上げるコツは何ですか?
A7:牛肉を長時間煮込まないことです。薄切り肉は火が通りやすいため、関西風では焼きすぎず、関東風では煮立った割り下に一枚ずつ広げて短時間で仕上げるとよいでしょう。
すき焼きの関西風と関東風は、牛肉を焼いてから調味するか、割り下で煮るかという調理法の違いから生まれている。
関西風は、牛肉を先に焼き、砂糖と醤油で直接味を付けることで、肉の香ばしさと甘辛さを楽しめる。一方、関東風は割り下を使うことで、肉や野菜に味をなじませ、鍋全体をまとまりのある味に仕上げられる。
歴史をたどると、関西の鋤焼と関東の牛鍋という異なる食文化が、明治以降の牛肉食の普及や1923年の関東大震災などを経て、現在のすき焼き文化につながっている。
キッコーマンの2024年調査では、東海地方が関東風と関西風の緩やかな境目とされ、地域ごとの食習慣にも違いが見られた。ただし、現代のすき焼きは地域の枠を越えて多様化している。
【プロの結論】 牛肉の香ばしさを主役にするなら関西風、割り下のうま味と具材の一体感を楽しむなら関東風。どちらが正解ということはない。肉の種類や食べる人数、その日の気分に合わせて調理法を選ぶことが、家庭ですき焼きをおいしく楽しむ一番の近道だ。
年末年始のごちそうとしてはもちろん、普段の食卓でも、関西風と関東風を食べ比べて自分の家庭ならではの味を見つけてみてほしい。
主な参考資料
- 農林水産省「うちの郷土料理・すき焼き(東京都)」
- キッコーマン株式会社「年末年始だけじゃない!すき焼きは普段から食べられている!『関東風』と『関西風』の分かれ目は東海地方?!」(2024年10月24日)
- キッコーマン「おいしいすき焼きはたれが決め手!『割り下』の黄金比を教えます」
- 公益財団法人日本食肉消費総合センター「すきやき」レシピ・用語集