逮捕されたのは、事件当時、大口病院で看護師として勤務していた久保木愛弓(くぼき・あゆみ)です。
捜査によって明らかになったのは、患者と看護師という本来は信頼関係にある立場を利用し、自身の勤務上の不安や負担を避ける目的で患者の命を奪ったという実態でした。
久保木愛弓が語った犯行の動機東京高等裁判所の判決文には、犯行に至るまでの経緯と動機が詳しく記されています。
裁判で認定された主な動機は、次の3点です。
- 患者が無断で病院を離れた場合、自分が責任を問われることへの不安。
- 夜勤中に患者が死亡した際、遺族への説明を自分だけで担当することへの恐怖。
- 自分の勤務時間外に患者が死亡すれば、家族対応の負担を避けられるという身勝手な考え。
判決文によると、久保木は患者の死亡そのものを積極的に望んでいたというより、自身が抱えていた不安や責任から逃れるために、患者を殺害するという極端な手段を選択していました。
もちろん、仕事上のストレスや精神的な問題があったことは、殺人行為を正当化する理由にはなりません。裁判所も、被害者には何ら落ち度がなく、動機は身勝手で酌量できないと評価しています。
裁判で認定された犯罪は3人の殺害と殺人予備久保木の刑事責任については、3人の患者に対する殺人罪に加え、別の患者に投与予定だった点滴などへの消毒液混入に関する殺人予備罪が審理されました。
具体的には、3人の患者を殺害した事実と、さらに4人の患者に投与予定だった点滴バッグ4個および生理食塩水1袋に消毒液を混入した殺人予備行為が、裁判で認定されています。
この点は、事件を「3人が亡くなった殺人事件」とだけ理解するよりも重要です。実際に死亡した患者以外にも、被害が拡大する危険があったことを示しています。
死刑求刑に対して無期懲役となった理由2021年11月9日、横浜地方裁判所は久保木に無期懲役を言い渡しました。検察側は死刑を求刑していました。
裁判所は、3人の生命が奪われた結果の重大性、計画性、看護師という立場を利用した犯行の悪質性、身勝手な動機を厳しく評価しました。
一方、犯行に至った心理的な経緯や更生可能性なども総合的に考慮し、死刑を選択することがやむを得ないとまではいえないと判断しました。
検察側は量刑を不服として控訴。弁護側も控訴しましたが、2024年6月19日、東京高等裁判所は双方の控訴を棄却しました。加えて、双方が上告しなかったため、同年7月に無期懲役が確定しています。
したがって、2026年現在の久保木愛弓の刑事裁判については、無期懲役という司法判断が確定した状態です。最高裁で改めて審理された事件ではありません。
【横浜はじめ病院の現在】旧大口病院との関係と2026年の施設状況

「横浜はじめ病院は現在どうなっているのか」という疑問も、大口病院横浜に関する検索で多く見られるテーマです。
結論から整理すると、横浜はじめ病院は旧大口病院と無関係の新設病院ではありません。旧大口病院が名称を変更した施設であり、運営法人も医療法人財団慈啓会です。
2017年12月に大口病院から横浜はじめ病院へ改称事件発覚後、病院は2017年12月に名称を大口病院から横浜はじめ病院へ変更しました。
医療法人財団慈啓会の公式沿革にも、この改称が記載されています。事件前の大口病院と改称後の横浜はじめ病院は、運営法人の沿革上、同じ施設の名称変更という関係です。
その後、2019年8月1日に病院の運営は休止されました。神奈川県の地域医療構想調整会議の資料には、休止日と、その後の再開に関する経緯が記録されています。
新型コロナ専門病院として2021年に再開横浜はじめ病院は2021年12月1日、新型コロナウイルス感染症に対応する専門病院として再開しました。
当時は、重症化リスクの高い患者を対象に、入院による薬剤投与などを行う医療施設として運営されていました。通常の外来診療を再開したという意味ではありません。
横浜市の2023年3月15日付の記者発表資料によると、横浜市のコロナ専門病院としての運営は、感染症法上の位置付けが5類へ移行することを踏まえ、2023年3月末で終了しました。
2021年12月から2023年3月までの患者受け入れ実績は1,625人でした。横浜はじめ病院は、事件後に単純に閉鎖されたままの施設ではなく、感染症対策の医療拠点として一定期間、地域医療を担っていたことが分かります。
2026年現在、通常診療は行われているのか2026年の状況を確認するうえで重要なのが、横浜市が公開している最新の医療施設名簿です。
2024年12月1日現在の横浜市の病院名簿では、横浜はじめ病院は神奈川区大口通130に所在する施設として掲載され、備考欄には「休止」と記載されていました。
一方、2026年10月1日現在の病院名簿では、横浜はじめ病院の掲載を確認できません。少なくとも、最新の市の病院名簿に通常の開設病院として掲載されている状態ではありません。
なお、慈啓会の公式法人概要には、現在も横浜はじめ病院が運営医療機関の一つとして掲載されています。このため、法人サイトへの掲載と、実際の診療状況や医療施設名簿への登録状況は分けて考える必要があります。
2026年11月時点で、一般患者向けの通常診療が再開されたと確認できる情報は、これらの公表資料からは読み取れません。
つまり、旧大口病院と横浜はじめ病院は名称変更による同一施設の関係ですが、事件後の医療提供体制は休止、感染症専門病院としての再開、運営終了という変遷をたどっています。
【よくある誤解を検証】大口病院事件の経緯と真相に関するよくある質問(FAQ)
大口病院連続点滴中毒死事件は、2016年9月に横浜市神奈川区の病院で発覚した、医療への信頼を根底から揺るがす重大事件でした。
事件の重要な事実を改めて整理すると、次のとおりです。
- 2016年7月から9月までの82日間に、4階病棟で48人が死亡した。
- 4人の患者からヂアミトールの成分が検出された。
- そのうち3人の殺害について元看護師の久保木愛弓が起訴され、有罪が確定した。
- 2018年7月7日に逮捕され、2024年7月に無期懲役が確定した。
- 大口病院は2017年12月に横浜はじめ病院へ改称された。
- 横浜はじめ病院は新型コロナ専門病院として再開したものの、2023年3月末に同事業を終了した。
- 2026年10月現在、横浜市の最新病院名簿には掲載されていない。
この事件で忘れてはならないのは、48人の死亡という数字と、刑事裁判で立証された3人の殺害を混同しないことです。4人から薬剤成分が検出された事実も、4人全員について同じ刑事責任が確定したことを意味しません。
また、事件の刑事責任が確定したことと、82日間に亡くなった患者全員の死因が解明されたことも別の問題です。48人の死亡の全容については、3人の殺人事件の判決だけで説明できるものではありません。
大口病院事件が医療現場に残した教訓は、患者の安全を守る仕組み、院内の異常を早期に把握する体制、職員からの通報を適切に共有する組織運営の重要性です。横浜市の検証報告書でも、情報共有や関係機関との連携、緊急時の判断基準の改善が課題として示されました。
2026年現在も、この事件を正確に理解するためには、2016年の発覚、2018年の逮捕、2024年の判決確定、そして横浜はじめ病院のその後を区別して把握することが欠かせません。
事件の重大性を風化させず、亡くなった患者と遺族の存在を忘れないこと。そして、医療機関における安全管理と説明責任について考え続けることが、この事件から社会が受け継ぐべき課題です。
主な参照資料: 横浜市医療安全業務検証委員会「横浜市の医療安全業務に関する検証報告書」、神奈川県警察の事件説明資料、裁判所公開の東京高等裁判所2024年6月19日判決、横浜市の医療施設名簿、医療法人財団慈啓会の公式沿革。